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「生活費の危機」がトップリスクに

2023-01-18

■ 短期的なリスクのトップに「生活費の危機」が挙げられた
■ インフレが定着し、金融引き締めバイアスと財政悪化への懸念が強まりやすい構図に

   世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(通称ダボス会議)が16日から20日の予定で開催されている。これに先立ち、WEFは11日に国際社会が直面する様々な脅威を分析した2023年版の「グローバルリスク報告書」を発表した。同報告書は年次総会の議論の材料となり、有識者や政策立案者、産業界のリーダーなど1200人以上の見解が反映されている。同報告書では、世界のリスクを今後2年の短期と10年の長期に分けて分析しており、長期的なリスクのトップ3は(1)気候変動を軽減する取り組みの失敗、(2)気候変動に対する適応の失敗、(3)自然災害と極端な異常気象、となり、トップ10のうち6つが気候変動関連となった。一方、短期的なリスクのトップ3は(1)生活費の危機(Cost-of-living crisis)、(2)自然災害と極端な異常気象、(3)地政学上の対立、となっている。

   短期的なリスクのトップに「生活費の危機」が挙げられたことの意味を考察しよう。2022年にはロシアによるウクライナ侵攻を受けて食品・エネルギーの供給に障害が生じたほか、国内価格を抑制するため多くの国で食料とエネルギーの輸出禁止を含む制限が導入された。ウクライナ情勢に変化がない限り供給制約への懸念はくすぶり、食品・エネルギー価格の上昇圧力として作用しよう。また、中国のゼロコロナ政策の緩和に伴う需要増加により、サービスセクター以外でもインフレが粘着性を帯びれば、金融引き締めの長期化につながる可能性がある。そうなれば、住宅ローン金利が高水準に達するなか、家賃のインフレもこれに追随しており、家計の住宅コスト負担が増すこととなろう。

   食料、エネルギー、住宅コスト、などの生活費の高騰は実質所得の低下、すなわち生活水準の悪化を招く。一部の国では財政拡大により支援されているが、その結果、財政悪化とそれに伴う将来への投資不足にもつながりかねない、と指摘されている。グローバリゼーションの進展に伴う低インフレの時代は過去のものになりつつあり、インフレの定着に伴い金融引き締めへのバイアスと財政悪化への懸念が強まりやすい構図が続くリスクがあると認識すべきだろう。

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