欧州:賃金インフレへの警戒を強めるECB
2023-01-12
■ ユーロ圏物価は、エネルギーで上昇ペースが鈍化する一方、財・サービスは上昇ペースが加速
■ ECBは労働需給ひっ迫や賃金上昇への警戒を強めており、金融引き締め継続を示唆している
6日に発表された昨年12月のユーロ圏消費者物価指数(HICP、前年比9.2%上昇)は、エネルギー価格の上昇ペースの大幅鈍化により、4カ月ぶりの低い上昇率となった。電気料金上昇抑制のための各国政府の補助金や天然ガスなど燃料価格の下落が寄与した。記録的な暖冬により年明け以降も天然ガス価格は下落しており、今後もエネルギー価格の上昇ペース鈍化が続くことが見込まれる。ただし、財、サービスでは物価上昇ペースが加速し、食品・エネルギー・酒類・タバコを除くコアHICP(同5.2%上昇)は統計開始以来最高の上昇率を更新した。基調的なインフレの勢いが衰えていることはまだ確認できない。
欧州委員会が公表するユーロ圏事業者・消費者調査をみると、製造業や建設業では昨年央以降、販売価格見通しのピークアウトが明確となっており、今後、原燃料価格の転嫁に歯止めがかかることが見込まれる。一方、サービス業、小売業の販売価格見通しは足元まで高止まりが続いている。小売価格のピークアウトにはまだ時間を要すること、サービス価格の上昇圧力は依然として強いことも合わせて示唆されている。
ラガルド欧州中銀(ECB)総裁は、昨年12月15日の理事会後の会見で、2月の次回理事会での0.50%利上げ、その後も追加利上げを行う可能性が高いことを認めた。目標水準までインフレを抑制するため、長期的に利上げを継続する必要性を主張するなど、引き締め姿勢へ一段と傾斜している。エネルギー価格のピークアウトが明確になりつつあるなかでも、ECBはむしろインフレへの警戒を強めており、労働需給ひっ迫や賃金上昇を理由に挙げる例が目立つ。その根拠として、ECBは9日公表の経済報告でコロナ禍以降のユーロ圏賃金動向に関する分析を発表した。現時点では比較的緩やかな賃金上昇にとどまり、トレンド変化を示す証拠はみられないものの、サービス業では賃金上昇圧力が強まりつつある兆候がみられ、実質賃金の減少が続くなかで低賃金業種を中心に労働組合からの賃金交渉が広がる可能性が指摘された。一連の分析結果を踏まえ、今後数四半期は過去のパターンと比べて非常に高い賃金上昇を見通している。ユーロ圏では失業率(昨年11月:6.5%)が統計開始以来最低水準で推移し、景気減速下でも労働需給ひっ迫が続いている。足元の指標結果やECBの認識を踏まえると、労働、賃金指標の軟化が確認されるまで政策姿勢の見直しは期待しづらくなっている。