世界経済:「浅く、短い」景気後退は実現可能なのか
2022-12-29
■ 2023年前半は各国で景気後退に陥る可能性が高まるが「浅く、短い」景気後退が見通されている
■ まだ金融引き締めの早期終了は見通し難く、調整の深度と期間のトレードオフに直面しそうだ
2022年の世界経済は、前年に多くの専門家が掲げていた見通しを大きく外れる経路を辿った。主因は、2月から続くロシアによるウクライナ侵攻である。原油、天然ガス、小麦など国際商品価格が急上昇し、世界的な物価高騰につながった。昨年末時点で、2022年はコロナ禍以降の政策支援が一巡し、緩やかな景気減速とともに、金融政策の正常化が予想されていたが、急激な物価上昇に直面し、各国中央銀行は異例の大幅利上げを迫られた。
では、「物価の安定」はなぜ重要なのか。日本銀行は「物価の安定」を「家計や企業等の様々な経済主体が、財・サービス全般の物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」と定義している。物価上昇は貨幣保有のコスト増を意味するため、物価の安定は経済活動にて財・サービス取引の対価として支払われる貨幣価値を安定させるための必要条件である、と筆者なりに言葉を補って解釈している。「発券銀行」として、貨幣価値の安定および通貨の信認を保つうえで、中央銀行は必然的に物価を安定させる責務を負うことになる。
2008-09年の世界金融危機以降、物価の安定とは、主にデフレ回避や目標水準への物価上昇率の引き上げを意味してきた。特に2010年代後半には、物価を引き上げるため政策的に景気を過熱させる「高圧経済」政策が志向された。2022年の物価高騰は、インフレ抑制という伝統的な金融政策の目的の優先度を高めた。中期的にも、「高圧経済」政策など過去10年余り続いた金融政策方針の見直しなど、金融政策姿勢に影響を及ぼすことが想定される。
2023年は、既往の金融引き締めが一段と景気を抑制し、年前半にも各国で景気後退に陥る可能性が高まっている。現時点では、多くの専門家が「浅く、短い」景気後退にとどまり、年後半に緩やかながら景気回復に転じることを見通している。物価安定が視野に入り、金融引き締めが見直されることが前提となっている。現状、米欧では労働需給ひっ迫は解消しておらず、基調的なインフレ率が2%を大幅に上回る水準にあることを踏まえると、金融引き締めの早期終了はまだ見通し難い。「浅い」景気後退にとどまるならば、調整は長期化し、逆に「短い」景気後退にとどまるならば、経済需給が著しく緩むような大幅調整が必要となろう。経済がどのような経路を辿るのかは、2023年の金融政策に左右されると考えられる。