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米国経済:貯蓄が個人消費を下支えする構図が続く

2022-12-14

■ 実質可処分所得が伸び悩み、貯蓄率の低下が続く

■ ストック面の過剰貯蓄は減少しつつあるが健在で、個人消費を下支えか


    10月の求人労働異動調査(JOLTS)における求人件数は約1033万件と、今年3月(約1186万件)にピークを付けて、緩やかに減少しているものの、なお高水準にある。労働需要の強さを示すなか、生産年齢人口(16歳以上)に占める25-54歳のプライムエイジと呼ばれる労働力人口(就業者と失業者の合計)の比率は11月時点で82.4%と、8月に82.8%と新型コロナ禍前のピーク(2020年1月、83.1%)に接近したあと、伸び悩んでいる。労働市場の需給は引き続き引き締まった状態にあり、賃金上昇圧力が弱まりにくい構図は続くとみられる。

    10月の米1人あたり可処分所得(季節調整済、年率換算)は、名目ベースでは56434ドルと、前月比0.1%増となった。新型コロナ禍前の2020年2月(51028ドル)から10.6%増となっており、賃金増を背景に着実な増加基調を示している。しかしながら、物価動向を考慮した実質ベースでは45323ドルと、今年に入って横ばい圏で推移しており、新型コロナ禍前(2020年2月時点、45948ドル)から1.4%減少している。インフレによる購買力の低下には歯止めが掛かっているものの、個人消費の増加にはつながりにくい環境になっていることが示唆される。

    こうしたなか、10月の貯蓄率(貯蓄額/可処分所得)は2.3%と2015-2019年の平均(7.6%)を大きく下回り、フロー面では平時より貯蓄ペースを抑制していることがわかる。一方で、ストック面では、貯蓄は新型コロナ禍後に積み上がったままである。米連邦準備理事会(FRB)が9日に公表した資金循環統計によれば、米家計貯蓄(普通・当座預金、貯蓄・定期預金、MMFの合計)は7-9月期には17.8兆ドルとなった。1-3月期(18.0兆ドル)をピークに伸び悩んでいるものの、2019年10-12月期(12.8兆ドル)から大幅に積み上げられている。インフレ高進に伴う実質可処分所得の目減りを給付金等による貯蓄の取り崩しが補い、個人消費が早期に腰折れする公算は小さいと思われる。一方、2015-2019年の平均的なトレンドが現在まで続いていると仮定すると、家計貯蓄は現在14.4兆ドルになると試算される。トレンドからの上方乖離分を過剰貯蓄と定義すれば、7-9月期は3.4兆ドルと1-3月期(3.9兆ドル)をピークに減少基調となっている。引き続き過剰貯蓄の取り崩しペースを慎重に見極める必要があろう。

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