米国:労働市場全体は堅調だが、業種ごとにまだら模様
2022-12-06
■ 11月の米雇用統計では労働市場の堅調さが示されたが、趨勢的には緩やかな軟化が継続
■ テクノロジー産業の人員削減、小売・運輸業の季節採用の抑制など、一部で変調の兆候も
11月の米雇用統計は労働市場の堅調さを改めて確認する内容となった。非農業部門雇用者数(NFP、前月比26.3万人増)の増勢は鈍化したものの、安定的な雇用増の目安となる前月比20万人を大幅に上回る増加が保たれ、失業率(3.7%)は引き続き米連邦準備理事会(FRB)が長期的な均衡水準と判断する4%を下回った。平均時給(前年比5.1%増、前月比0.6%増)は3カ月連続で前月比の増勢が加速し、賃金上昇圧力も再び強まりつつある。業種別内訳では、NFPはレジャー・接客業、教育・健康サービス業で大幅増が続いている反面、小売業、運輸・倉庫業は3カ月連続で減少した。もっとも、小売業、運輸・倉庫業の平均時給は前月に続いて民間部門全体を大幅に上回る上昇率を記録しており、採用難が反映されていることを示唆する。労働参加率(62.1%)も低下し、経済全体で労働市場のスラック(未利用の労働資源)が依然として大きく、労働需給のミスマッチ解消が進んでいないことがうかがえる。
コロナ禍後に採用が急増した主要ハイテク企業では、採用凍結や人員削減計画の発表が相次いでおり、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社が集計する11月の企業人員削減予定数(7万8635人)はテクノロジー産業を中心に急増した。また、小売・運輸業を中心に年末商戦に向けた季節採用計画数(59万7600件)も2013年以来の低水準となっており、採用難とともに、年末商戦の不振や景気失速に伴う労働需要の低迷が反映されている可能性も考慮しておく必要がある。11月30日公表の米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、労働市場の状況は「ほとんどの地区で雇用は緩やかに増加したが、2地区では従業員数は横ばいとなり労働需要が弱まっている」と報告され、10月時点から下方修正された。労働市場では業種ごとに異なる問題を抱えているが、全体としては緩やかな軟化にとどまる。米連邦準備理事会(FRB)が主張する利上げペース減速、および金融引き締め継続の修正を迫るような労働市場全体の変調は確認されず、現行の政策方針を維持する根拠の一つになると考えられる。