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欧州:インフレピークアウト後に直面する課題

2022-11-24

■ ユーロ圏HICPは上昇ペース加速が続いているが、エネルギー価格高騰には歯止めの兆候

■ ただし、基調的インフレ率は高止まり、金融引き締めを継続する必要性を示している


米国では10月の物価指標で上昇ペース鈍化が明確となり、インフレのピークアウト観測が広がり始めている。対照的に、ユーロ圏では消費者物価指数(HICP、10月:前年比10.6%上昇)の上昇ペース加速に歯止めがかからず、まだピークアウトを見通せない状況が続く。
ユーロ圏では、前年10月以降にエネルギー価格の騰勢が強まったため、ベース効果*1により前年比での上昇率は、計算上、今後抑制に寄与することが見込まれる。加えて、欧州の天然ガス指標価格(オランダTTF先物)が8月下旬のピークの約3分の1の水準まで下落したため、エネルギー価格の上昇圧力自体も徐々に弱まることが期待される。もっとも、エネルギー価格には遅行して反映されるため、当面は高止まり、インフレのピークアウトが明確になるには少なくとも数カ月を要する。また、既往のエネルギー価格高騰が波及して食品、工業製品などの財価格は騰勢を強めており、人件費などコスト増によりサービス価格も高い上昇率が続いている。10月のエネルギー・食品・酒類・タバコを除くコアHICP(前年比5.0%上昇)は9カ月連続で上昇ペースが加速し、欧州中銀(ECB)のインフレ目標を大幅に上回る。今後のインフレ抑制の焦点は、米国同様、エネルギー以外の基調的なインフレへ移ることになるだろう。
ECBは、幅広い品目に共通するインフレ基調を捕捉することを目的にPCCI(Persistent and Common Component of Inflation:持続的かつ共通成分のインフレ率)を公表している。PCCIは、各品目のインフレ率のうち、国・品目特有の変動や測定誤差を除き、品目間の相関の高い共通成分の加重平均として算出される。ECBは基調的な変化を捉えるため前年比の3カ月後方移動平均を注視している。PCCIの推移をみると、HICPが騰勢を強めるなかでも6月から9月にかけて4カ月連続で上昇ペースが鈍化し、ピークアウトを示唆する動きを示していたが、10月(前年比5.8%上昇)は再び騰勢を強めている。また、コロナ禍以前からECBが基調的インフレ率を捉えるための参考指標としている5年先5年間のインフレスワップも、7月に一時的に2%を下回ったものの、8月以降は徐々に水準を切り上げ、現在2.3%超で推移している。上記2つの基調的なインフレ率はECBのインフレ目標を上回る水準で高止まっており、インフレピークアウト確認後も金融引き締めを継続する必要性を示している。

*1 前年の基準が切り上がるため、例えば、前月と同等の水準でも前年比の上昇率は小さくなる
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