米国:信頼性の高い景気後退シグナルが点灯か
2022-11-02
■ 先月26日以降、米3カ月、10年国債利回りの逆転現象が続いている
■ 1970年以降、この現象は米景気後退入りの直前のみ、毎回観測されている
先月26日に期間3カ月と10年の米国債利回りが逆転し、その後も逆転現象が続いている。この両期間の長短金利差は、NY連銀が今後12カ月間の景気後退確率の試算に用いている指標である。NY連銀の公表値によると、1970年以降、8度の米国の景気後退局面では、すべて1年程度先行して、月間平均値ベースで期間3カ月と10年の米国債利回りが逆転している。期間3カ月と10年の長短金利逆転後に景気後退入りを回避した事例は、1966年まで遡らなければ観測されない。これらを踏まえると、早期警戒指標としての同指標の信頼性は非常に高く、金利差逆転が解消されない場合、景気後退入りの蓋然性が高まることを意味する。
では、米3カ月、10年国債利回りが早期に再逆転することは期待できるのか。結論から先に記せば、完全に否定することはできないものの、その可能性は低いだろう。米3カ月国債利回りは約4.09%(10月31日終値)であり、11月以降の追加利上げを織り込む動きが続いている。今後3カ月のうちに、11月1、2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が3.75-4.00%まで引き上げられ、12月13、14日のFOMCでもさらに引き上げられることが想定される。純粋期待仮説に基づくと、12月以降の利上げペースに関わらず、利上げが終了するまでは米3カ月国債利回りの上昇基調は止まらない計算になる*1。一方、米10年国債利回りに対してはその寄与度は相対的に非常に小さく、将来的な利下げなども反映される。このため、一般的に米10年国債利回りは潜在成長率や期待インフレ率などの中長期的な均衡水準に収束する。このような現状で、米10年国債利回りが米3カ月国債利回りを上回るペースで上昇し、両年限の利回りが早期に再逆転するハードルは非常に高い。
米3カ月、10年国債利回りの逆転は、米連邦準備理事会(FRB)にとっても、今後の金融政策が景気のオーバーキルが意識される領域に踏み込むことを意味する。FRBは本格的に景気とインフレのトレードオフを考慮する必要性が高まり、いつ、どのように政策調整を行っていくのか、従来以上に難しいコミュニケーションに直面することになる。
*1 1日経過するごとに、現在の翌日物金利での運用期間が1日減少し、代わりに3カ月後のより高い翌日物金利での運用期間が1日増加することを前提に金利水準が決まるため。ただし、利上げペースが鈍化すれば、3カ月国債利回りの上昇ペースも鈍化する。