英国:金融市場の混乱は過ぎ去ったのか
2022-10-24
■ 英政府の減税計画撤回と退陣により、金融市場の混乱は収束へ向かう
■ ただし、根本原因と考えられる金融引き締めは続くため、同様の混乱は再発する可能性がある
英国の金融市場の混乱は、政府の減税計画撤回とトラス首相の辞任により収束に向かいそうである*1。ただし問題は根深く、根本的な問題解決には至っていない可能性が高い。根本原因分析(Root Cause Analysis、RCA)の枠組みに基づいて一連の混乱を整理し、根本原因や今後の課題を考察する。
RCAとは、問題から遡ってその背後にある原因を探り、より根本的な原因を特定する手法である。今回の英金融市場の混乱に当てはめると、直接的な原因には英政府の財源なき減税計画が該当する。大部分は17日に撤回され、20日にトラス首相が辞任を表明したため、この点についてはすでに解消された。しかし、これは混乱の引き金に過ぎず、混乱拡大の背景には年金基金や生命保険などでデリバティブを積極的に活用して資金効率を高める負債主導投資(LDI)が普及していたことが指摘できる。英国債価格の急落(利回りの急上昇)により巨額のマージンコール(追証)を迫られ、ファイヤーセール(投げ売り)が促されるなどの悪循環に陥り、担保価値の安定を前提に行われていたレバレッジ投資の脆弱性が露呈した。英国債利回りの急上昇を助長したのが英政府の財政弛緩だとすると、利回り上昇の素地を整えたのは英中銀(BOE)の利上げである。急速に金融引き締めが進められていることは根本原因の一つに挙げられ、金融市場の混乱はその歪みの一部が表面化したものと整理できる。
英国債買い入れ再開によりBOEは「最後の買い手」として英国債利回り上昇の歯止め役も担った。ただし、今回問題となったレポ取引など、銀行以外の金融機関が介する取引(シャドーバンキング)で問題が生じた際に有効な常設手段を有していない点も明らかとなり、市場への流動性供給に関しては課題も残される。今回の混乱は、米連邦準備理事会(FRB)が導入する常設レポファシリティ(SRF)などの検討が進められるきっかけとなる可能性があろう。
BOEは11月1日から英国債売却を開始し「最後の買い手」の役割を終える。インフレ抑制に向けて大幅利上げも継続される見通しである。根本原因が解消されないまま金融環境は一段と引き締まるため、金融市場での歪みは蓄積し、今後も同様の混乱が生じることは十分想定される。英国以外でも金融引き締めが進められており、今回の混乱は対岸の火事ではない。
*1 これまでの推移についてはPRESTIA Insight 2022.10.20「英金融市場の迷走は続く」をご参照ください