財政弛緩に対する「債券自警団」からの警鐘
2022-09-30
■ 新政権の財政弛緩に債券自警団が警鐘を鳴らしており、経済対策を予定する日本でも要警戒か
先週以降、世界的に金利上昇が加速し、資産価格が急落している。20、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて、インフレ抑制に向けて積極的な金融引き締めを継続する姿勢が明確となり、政策金利見通しが大幅に引き上げられたことが金利上昇の主因だが、一部地域では、これに加えてリスクプレミアムが拡大し、金利上昇に拍車がかかっている。
その代表例には英国、イタリア(伊)が挙げられる。英国では、トラス政権の減税政策発表をきっかけに財源としての国債増発が警戒され、長期金利が上昇した。株価、ポンドの下落とともに「英国売り」の様相となり、市場を安定化させるために英中銀は国債買い入れを迫られた。イタリアでは、25日の総選挙で右派連合が上下両院で過半数議席を獲得し、第一党となった極右政党「イタリアの同胞(FDI)」のメローニ党首を首相とする右派連合政権が誕生する見通しである。難民政策などで欧州連合(EU)への反対姿勢を掲げて支持を集めてきた一方、イタリアは欧州復興基金(NGEU)を通じた財政支援の恩恵を受けており、政策運営が不安視されている。金融市場では大衆迎合への警戒が広がり、先週後半より伊長期国債の対ドイツ国債利回り差(スプレッド)が急拡大し、長期金利も2013年以来の高水準に達している。欧州中銀(ECB)はインフレ抑制に向けて大幅利上げを推進する一方で、7月に金融引き締めに伴う周縁国国債のスプレッド拡大の抑制を企図して「伝達保護措置(TPI)」を導入した。ただ、ラガルドECB総裁は26日、イタリアを念頭に、加盟国の政策によって生じた金利上昇に対してはTPI発動に消極的な姿勢を示している。イタリアがユーロ圏加盟国分断の新たな火種となる可能性が浮上している。
以上のように、英国、イタリアでは、「債券自警団」*1が新政権による財政弛緩に警鐘を鳴らしている。大型財政出動が容認された2020年のコロナ禍直後とは異なり、経済需給ひっ迫により物価上昇圧力が強まるなかで、財政緩和を推進することを安易に選択しづらい状況となりつつあることを示している。日本でも10月に総合経済対策の策定が予定されている。英国、イタリアとの違いとして、日銀が政策的に長期金利上昇を抑制している点が挙げられるが、円安圧力が強まるなかで財政緩和を進める副作用として、将来的なインフレ観測を高め、外国為替市場などで自警団による「日本売り」が促され得る点は注意が求められよう。
*1 財政赤字拡大や物価上昇を招くような財政・金融弛緩に対して、投資家が債券を売り浴びせ、市場金利上昇によって政策規律を促すことを、自警団に例えた表現