News

米国:貯蓄が個人消費を下支えする構図は保たれよう

2022-09-14

■ 実質可処分所得が伸び悩み、貯蓄率の低下が続く

■ ストック面の過剰貯蓄は健在で、個人消費を下支え


7月の労働求人異動調査(JOLT)における求人件数は約1124万件と、今年3月のピーク(約1155万件)に近い高水準を維持し、労働需要の強さがうかがえる。8月の米雇用統計では、生産年齢人口(16歳以上)に占めるプライムエイジ(25-54歳)の労働力人口(就業者と失業者の合計)の比率は8月時点で82.8%と、新型コロナ禍前のピーク(2020年1月、83.1%)に接近していることが示された。労働市場の需給が逼迫した状態にあることに変化はなく、賃金上昇圧力が弱まりにくい構図は続くとみられる。

7月の米1人あたり可処分所得(季節調整済、年率換算)は、名目ベースでは55966ドルと、前月比0.2%増となった。新型コロナ禍前(2020年2月、50478ドル)から約11%増となっており、賃金増を背景に着実な増加基調を示している。しかしながら、物価動向を考慮した実質ベースでは45464ドルと、今年に入って横ばい圏で推移しており、新型コロナ禍前(2020年2月時点、45453ドル)とほぼ同水準を維持している。インフレによる購買力の低下には歯止めが掛かっているものの、個人消費の増加にはつながりにくいことが示唆される。

こうしたなか、4-6月期の貯蓄率は5.1%と1-3月期(5.6%)から低下。新型コロナ禍前(2019年10-12月期、7.4%)を下回り、フロー面では平時より貯蓄ペースを抑制していることがわかる。一方で、ストック面での貯蓄は新型コロナ禍後に積み上がっている。米連邦準備理事会(FRB)が9日に公表した資金循環統計によれば、米家計の預金(普通・当座預金、貯蓄・定期預金、MMFの合計)は4-6月期には17.9兆ドルとなり、新型コロナ禍前(2020年1-3月期、13.7兆ドル)から大幅に積み上がっている。インフレ高進に伴う実質可処分所得の目減りを給付金等による過剰貯蓄の取り崩しが補うことで、個人消費が早期に腰折れする公算は小さいと思われる。ただ、前期(18.1兆ドル)からは約0.2兆ドル減少しており、2019年4-6月期以降で初めて前期比マイナスとなった。基調が変化した可能性があり、この先は過剰貯蓄の取り崩しペースを慎重に見極める必要があろう。
TOP