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新興国:資本流出が一服、ただし再流出への警戒は強い

2022-09-13

■ 非居住者による新興国への証券投資フローは6カ月ぶりに流入超過に転換

■ ただし、米国の金融引き締め姿勢が一段と明確になり、再び流出圧力が強まることが見込まれる


国際金融協会(IIF)の推計によると、8月の非居住者による新興国への証券投資フロー(270億ドル流入)は6カ月ぶりに資金流入に転じた。月間では年初来最大の流入となり、3月から7月までに生じた累積流出額の50%超が1カ月間で再流入した計算になる。特に株式(212億ドル流入)には2020年12月以来の大幅な資金流入が観測された。7月26、27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見をきっかけとして、米金利先物市場で2023年以降の利下げを織り込む動きが進み、株式を中心に新興国への資金流入が促された。ただし、8月26日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、2%の物価目標への回帰が明確になるまで金融引き締めを継続する方針を強調し、現在は状況が一転している。米金利の上昇圧力が強まるとともに、外国為替市場ではドル高に拍車がかかり、ドルインデックスは9月上旬には2002年6月以来の高水準へ上昇した。ドルへの資本還流加速や新興国から資本流出が再び懸念されつつある。

新興国全体でみると、返済義務や借り換えを伴う債券からの持続的な資金流出は生じておらず、資本市場からの資金調達が著しく滞っている状況にはない。ただ、中国(株式:9.9億ドル流入、債券:77.5億ドル流出)からは7カ月連続で流出し、特に債券からの流出に歯止めがかからない。ゼロコロナ政策や電力不足による企業業績悪化や不動産業などの債務不履行(デフォルト)に対する海外投資家の強い懸念がうかがえる。8月下旬以降、米金利上昇とともに人民元安が再加速しており、8月末時点の中国の外貨準備高(3兆549億ドル)は2015年のチャイナショックの際に割り込んだ3兆ドルに接近している。中国人民銀行は5日に外貨預金準備率の2%ポイント引き下げを決定するなど通貨安対策を強化している。

米国の金融引き締め姿勢が一段と明確になり、新興国の資本収支は不安定な状況が当面続くことが想定される。ひとたび資本流出が加速すると、新興国は大幅に金利を引き上げて資本流出を防止する必要が生じる。新興国経済は資本流出と大幅な金融引き締めの同時発生に直面し、それが景気急減速やさらなる資本流出を引き起こす悪循環に陥る危険性が高まる。現時点でその兆候はみられないが、先進国で景気後退が現実味を帯びるにつれて本国への資金還流が促され、その可能性が高まる点は認識しておく必要がある。
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