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ECB理事会レビュー:不透明感は払しょくできず

2022-09-12

■ ECBは主要政策金利を75bpsずつ引き上げたが、「利上げはデータ次第」の方針を維持

■ ラガルドECB総裁は具体的な「ターミナルレート」・「中立金利」に言及せず、不透明感は根強い


9月8日に欧州中銀(ECB)は理事会で、主要政策金利を75bpsずつ引き上げた。利上げ幅はECB発足以来最大となり、前年比ベースの上昇率が過去最高を更新したユーロ圏の8月消費者物価指数(HICP)の結果などに対応した。なお、7月理事会で導入を発表した「伝達保護措置(TPI)」の詳細など、非伝統的な金融政策手段について、追加の発表はなかった。今回のポイントは(1)今後の具体的な利上げ幅、(2)景気のシナリオ、の2点を整理しておきたい。

(1)では、ECBが想定する「中立金利(景気を刺激も抑制もしない水準)」と「ターミナルレート(利上げの最終到達点)」について、注目したい。ラガルドECB総裁は、記者会見の質疑応答でいずれも「水準は不明」と述べたうえ、「確実なのは、ECBが物価抑制に向けて利上げを行うこと」とした。7月理事会で示した「利上げはデータ次第」の方針は維持され、フォワードガイダンスは復活していない。ラガルドECB総裁は、9月理事会を含めて「2回以上、5回未満」の理事会で利上げ継続と述べたものの、どこまで市場の織り込みに反映されるかは不明だ。

(2)では、今回更新されたECBスタッフによる経済予測や欧州景気を巡るECBの見通しに注目したい。経済予測では、前回6月より一段と経済成長率見通しを下方修正、物価上昇率見通しを上方修正した。ECBは、インフレ高進を利上げ継続の根拠とし、年末にかけて景気の大幅な減速を予想。ただし、現時点でもメインシナリオで景気後退は見込まず、金融市場では英中銀(BOE)と比べて見通しが楽観的との声も根強い。この点を質問されたラガルドECB総裁は、「ダウンサイドシナリオでは、景気後退を見込む」としたものの、「ユーロ圏全体でガスが配給制になる」など、かなり想定は限られている点を印象付けた。今後も金融市場では、欧州天然ガス価格の値動きと欧州景気の動向が紐づけられて材料視される状況は続くとみる。

以上から、理事会後に公表された声明やラガルドECB総裁の記者会見を確認する限り、ECBの金融政策姿勢の先行き不透明感払しょくには、つながらなかったと整理できよう。そのため、筆者は欧州金融市場の不安定感は継続を見込んでいる。
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