J-REIT:緩和的な金融環境に支えられた復調
2022-09-08
■ ファンダメンタルズよりも金融環境の寄与が大きく、来春以降の日銀の政策姿勢が基調を左右か
半期ごとに定点観測している国内不動産・不動産投資信託(J-REIT)市場の動向をまとめる。J-REIT市場全体の動向を反映する東証REIT指数は1月に約1年ぶりに1800ポイントを下回り、分配金利回りは約4%まで上昇した。3月中旬まで低迷が続いたが、徐々に水準を切り上げ、現在は2000ポイント前後まで持ち直している。9月6日時点でJ-REIT(東証REIT分配金込み指数、年初来0.6%上昇)は、日本株(TOPIX配当込み指数、同1.9%下落)、米国REIT(NAREITトータルリターン指数、米ドル建て、同17.6%下落)など、他の国内アセットクラスや海外REITと比較して相対的に底堅く推移している。
J-REITの復調は、国内不動産市場のファンダメンタルズよりも金融環境が大きく寄与している。海外ではインフレ抑制のため金融引き締めに転じるなか、日銀は緩和的な金融政策を継続し、日本では低利での資金調達が可能な状況が続く。また外国為替市場で3月半ば以降、急速に円安が進行し、海外投資家にとって国内不動産の投資機会が増加した。J-REITの投資家別売買状況をみると、海外投資家は円安が加速した3月に大幅に買い越し、指数上昇をけん引した。対照的にファンダメンタルズは低迷しており、三鬼商事が集計する東京のオフィス平均賃料は2020年7月をピークに24カ月連続で下落が継続中。東京カンテイが集計する東京23区の分譲マンション賃料(7月:3823円/㎡)はコロナ禍直前の2020年2月(3792円/㎡)とほぼ変わらず、2020年まで上昇が続いてきた賃料は伸び悩んでいる。賃料上昇を伴わずに売買・分譲価格が高騰しており、収益還元法でみた不動産価格の割高化が進行している。
既存テナントが一斉に入れ替わる訳ではないため、ホテル特化型などの一部銘柄を除けば、コロナ禍以降の賃料相場のピークアウト後もJ-REITの賃料収入は安定している。ただ、テナント入れ替え進展に伴って徐々に賃料下落や空室増加などの影響は強まろう。直近半年は海外資金の流入などに支えられ、東証REIT指数は年初来の下落をほぼ解消したが、リスクプレミアムを示すイールドスプレッド(分配金利回り-10年国債利回り)は2016年9月以降の平均を下回る3.4%台前半まで低下している*1。日本でも緩やかに金利が上昇し始め、来年4月には黒田日銀総裁の任期満了を迎える。来春以降の日銀の金融政策姿勢は、J-REIT市場の基調も左右するとみられる。
*1 日銀は2016年9月に長短金利の誘導目標を定める「イールドカーブ・コントロール」政策を導入した