米国:政策ガイダンス撤回に弊害はないのか
2022-08-02
■ FRBは利上げペース減速を示唆すると同時に、今後の政策ガイダンスを撤回した
■ 金融市場で利下げなどを織り込む余地を広げ、金融引き締め効果相殺などの弊害も想定される
米金利先物市場では2023年以降の利下げが織り込まれ始めており、7月26、27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を経てこの動きが加速している。
7月26、27日のFOMCでは、6月時点の参加者の政策金利見通しに整合するような9月以降の利上げペース減速の手掛かりが示されるのかが焦点の1つであった。声明文では、消費、生産の認識が引き下げられたものの、今後の金融政策姿勢に関する記述は変わらず、現行政策の継続が確認された。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長はFOMC後の会見で「次回会合では、通常を上回る大幅な利上げが適切となる」と述べ、9月は0.25%を上回る利上げを検討していることを示唆した。また、記者からの質問に対する回答では、2022年末までに3.0-3.5%まで政策金利を引き上げ適度に景気抑制的な水準とする考えや、政策金利が経済に対して中立的な水準に達したため、いずれかの時点で利上げペースを減速させることが適切になるとの見解などを明らかにし、今後の政策の手掛かりを示した。0.75%利上げの継続やターミナルレート(利上げ局面での政策金利の最終到達水準)上振れへの懸念を和らげるとともに、物価安定を最優先に2%のインフレ目標達成が視野に入るまで金融引き締めを継続する従来の政策方針に変更がないことも確認された。
一方で、パウエルFRB議長は「今後は、これまでのように明確なガイダンスを示すのではなく、会合ごとに意思決定を行う」と述べ、具体的な政策ガイダンスを示さないことを明言している。政策ガイダンス撤回は、今後の利上げペースなどの政策の柔軟性を高める反面、政策予見性を低下させることになるだろう。現時点では、FRBは将来的な利下げなど、景気減速に対応して金融緩和に転じる方針を示していないが、景気後退観測の台頭とともに、金融市場で将来の利下げを織り込む余地を与える一因となったと考えられる。市場金利低下によりインフレ抑制が進まず金融引き締め効果が相殺されることや、金融政策の織り込みの修正とともに市場金利が乱高下し、市場変動性が高まるなど、将来的な弊害も想定され、FRBはより丁寧な情報発信が求められることになる。