世界経済:2023年にかけて景気減速が続く見通し
2022-07-28
■ IMFは最新の「世界経済見通し」を公表し、2022、23年の成長率見通しを下方修正した
■ 米国、ユーロ圏で2023年の成長率見通しの引き下げが目立った
26日、国際通貨基金(IMF)は最新の「世界経済見通し(World Economic Outlook、WEO)」を発表した。今回は4月に公表されたWEOの中間改訂であり、2022、2023年の見通しのみ見直された。世界経済の成長率は3四半期連続で下方修正され、2022年が3.6%から3.2%へ、2023年を3.6%から2.9%へそれぞれ引き下げられた。一方で、物価見通しは大幅に上方修正され、2022年が7.4%から8.3%へ、2023年を4.8%から5.7%へそれぞれ引き上げられている。ロシアのウクライナ侵攻、国際商品価格の高騰、インフレ抑制に向けた金融引き締めなどが主な見通し修正の要因に挙げられ、金融引き締め効果が強まる2023年にかけて、インフレが鎮静化に向かう一方で、成長ペースは一段と減速することが想定されている。地域別では、大幅な金融引き締めが進行する米国や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が大きいユーロ圏で、2023年の成長率見通しの引き下げが目立った。
IMFは19日に、ロシア産天然ガス供給が遮断された場合の欧州への経済的影響の試算結果を公表している*1。ロシアからの輸入が完全に遮断され、価格調整(価格上昇)を経てもガス供給不足が解消されない場合、ベースラインシナリオで、今後1年間、欧州連合(EU)のGDPが2%程度減少する。ロシア産エネルギーへの依存度が高いハンガリー、チェコ、スロバキアなどの中東欧の国ではそれぞれ約4%減少し、欧州内でのガス輸送網の制約を受け、天然ガスを主力燃料とする火力発電比率が高いイタリアは3.5%前後減少する。また、天然ガス供給が需要を下回るドイツ、オーストリアでも約2%減少と、上記4カ国に次ぐ大きな影響が試算されている。ロシアからの天然ガス供給はすでに2021年6月時点から60%減少しており、IMFは代替エネルギーおよび調達先の見直しにより対応可能だと見通しているが、ロシアは天然ガス供給を一段と削減する方針を表明し、上記シナリオの蓋然性は高まりつつある。欧州委員会は5月に発表した「ロシア産化石燃料依存からの脱却計画(REPowerEU)」で、天然ガスや石油需要の5%抑制に向けた行動変容を求めており、26日のEUエネルギー相会合では、来年3月までガス需要を自主的に15%削減することで合意した。エネルギー需給逼迫が見込まれる今冬の経済活動収縮が避けられない状況となっている。
*1 IMF Working Paper “Natural Gas in Europe: The Potential Impact of Disruptions to Supply” (2022年7月19日)