新興国:米金融引き締めとともに資本流出が進行中
2022-07-14
■ 株式からの流出が中心だが、債券からの流出も定着する場合、危機発生の蓋然性が高まる
米国の金融引き締めは、米金利上昇、ドル高、マネーフローの変化などを通じて、米国内だけではなく海外にも大きな影響を及ぼす。特に新興国では、先進国に比べて国内の資金需要に対する海外資本への依存度が高い国(すなわち経常赤字が常態化している国)が多く、その影響も大きい。平時は収益機会を求めて海外資本が流入する一方で、ひとたび金融環境が引き締まると、それまで流入してきた海外資本の急激な流出に直面する傾向がある。1990年代には、メキシコ(1994-95年)、アジア諸国(1997年)、ロシア(1998年)、ブラジル(1999年)などで通貨危機が頻発した。1990年代の通貨危機を経て、新興国は海外資本への依存度を低下させ、2000年以降、通貨危機の発生は減少傾向にあるが、メキシコ通貨危機など、その一部は米国の利上げが海外資本の急激な流出の引き金となってきた。
今回の米金融引き締めでも、新興国向けの海外資本フローに変調の兆候がみえ始めている。国際金融協会(IIF)が推計する新興国の資本流出入をみると、3月以降、4カ月連続で新興国からは資本流出が続いている。4カ月連続の流出は、「チャイナショック」と呼ばれる中国株急落や人民元レート切り下げなどの混乱が生じた2015年以来となる。3月の米国の利上げ開始に加え、ロシアのウクライナ侵攻や欧米諸国の対ロシア制裁、中国のゼロコロナ政策による主要都市の都市封鎖などが続き、新興国のカントリーリスク(当該国の政治・経済・社会情勢などの急変による損失)が意識されたことも海外投資家の資本流出を促していると考えられる。3月には株式、債券ともに流出超過となり、資本流出への懸念が広がったが、4月以降、債券には少額ながら資本流入が続き、3月以降の4カ月間では、株式からは約427億ドル流出した一方、債券は約150億ドルの流入超過となっている。
これらの動きをみる限り、現時点では景気循環や金融政策サイクルに応じた海外投資家のポートフォリオ調整にとどまっている模様で、新興国の資金調達が困難な状況に直面している訳ではなさそうだ。ただし、米金融引き締め継続のもとで債券からの流出も定着する場合、新興国では資本流出防止のための大幅利上げなどが強いられ、新興国経済は一段と抑制され得る。このような悪循環に陥ってしまうのか、見極めの重要な分岐点に差し掛かりつつある。