米国:雇用情勢に変化の兆し、個人消費は伸び悩みか
2022-07-11
■ 雇用関連指標の悪化は景気減速への対応と人手不足によるものか
■ 米個人消費は腰折れの公算は低いとみるが、伸び悩むおそれ
米国で雇用関連指標に変化の兆しがみられる。6月のISM製造業景況感指数を構成する5つのサブ指数のひとつである雇用指数は47.3と前月(49.6)から悪化したほか、同非製造業景況感指数の雇用指数も47.4と前月(50.2)から大きく低下し、両指数ともに節目の50から下振れる結果となった。一部企業で雇用削減が報じられるなど、景気の先行き不透明感に対応した動きとみられるほか、発表元は企業が求める能力を持つ労働者の応募が少なく、採用活動に支障が出ていると指摘している。なお、5月のJOLT求人件数が1130万件と高水準を維持し労働需要の強さを示すなか、5月雇用統計で示された生産年齢人口(16歳以上)に占める25-54歳のプライムエイジと呼ばれる労働力人口(就業者と失業者の合計)の比率は5月時点で82.6%と、新型コロナ禍前のピーク(2020年1月、83.1%)に接近している。労働市場の需給が逼迫しつつある模様で、賃金上昇圧力が弱まりにくい構図は続くとみられる。米商務省が6月30日に公表した5月の米1人あたり可処分所得(季節調整済、年率換算)は、名目ベースでは55511ドルと、前月比0.5%増、前年比2.3%増となった。新型コロナ禍前の2020年2月(50478ドル)から10%増となっており、賃金増を背景に着実な増加基調を示した。
しかしながら、物価動向を考慮した実質ベースでは45490ドルと、同0.1%減、3.8%減と冴えない結果となった。2020年2月時点(45453ドル)とほぼ同水準となり、賃金上昇ペースがインフレに追いついていないことが示唆される。米家計の決済性預金は2020年1-3月期の1.13兆ドルから2022年1-3月期には4.29兆ドルに急増しており、こうした過剰貯蓄に支えられて個人消費が早期に腰折れする公算は小さいと見込まれる。ただ、所得下位20%の世帯の同預金残高は2020年10-12月期以降減少基調をたどっており、新型コロナ禍で歳出された給付金等による貯蓄を取り崩す動きに拍車がかかっている。また、所得上位10%の世帯では、資産全体に対して株式が約35%、個人事業資産・非上場株が約13%の保有比率となっており、株価下落により積極的な消費を控える可能性があろう。個人消費の先行きには不透明感がくすぶる。