世界経済:資源輸入国から資源輸出国へ所得移転が進展
2022-06-28
■ 日本、ユーロ圏など資源輸入国の対外収支が悪化する一方、豪州などの資源輸出国では改善
■ 交易利得の増減を通じて、資源輸入国と資源輸出国のインフレの負担感には差が生じよう
日本、ユーロ圏などの資源輸入国では、原燃料価格高騰により、財収支の赤字が趨勢的に増大している。日本では5月の貿易収支(1兆9314億円赤字、以下カッコ内は季節調整値)が単月で過去2番目の大幅赤字を記録した。ユーロ圏では経常収支(4月:58億ユーロ赤字)が3月に約10年ぶりの赤字に転落し、4月には赤字幅が拡大した。天然ガス価格が急騰した昨秋以降、財収支が悪化し、ロシアによるウクライナ侵攻がこの傾向に拍車をかけている。
対照的に、豪州、カナダ(加)などの資源輸出国では対外収支が顕著に改善している。豪州では4月の貿易収支(104.95億豪ドル黒字)が3カ月ぶりに100億豪ドルを上回り、2021年以降は安定的に100億豪ドル前後の黒字を計上している。主要輸出品である鉄鉱石、石炭価格の上昇を受けて財収支の黒字拡大傾向が続き、経常収支は2019年4‐6月期以降、黒字が定着している。カナダでも、4月の貿易収支(15.0億加ドル)が4カ月連続の黒字となるなど、原油、天然ガス価格上昇が寄与し、2021年6月以降は黒字基調が定着しつつある。経常収支も1‐3月期(50.3億加ドル)に2008年4‐6月期以来の大幅黒字を計上し、リーマンショック以降定着していた経常赤字から脱却しつつある。
以上のように国際商品価格の高騰により、世界各国で対外収支の構造的な変化が観測され、資源輸入国と資源輸出国の間で交易条件が大きく変化している。交易条件とは、輸出品1単位と交換される輸入品の数量比率のことであり、交易条件が悪化した資源輸入国から資源輸出国への所得移転が進んでいる。日本では、2022年1‐3月期の実質国内総所得(GDI)は実質国内総生産(GDP)を約11.5兆円(対GDP比約2.14%相当)下回る。国内で生産された付加価値が海外へ流出していることを示唆しており、4‐6月期以降、この傾向が一段と強まる可能性が高い。日本、ユーロ圏ともに、経済活動再開による繰延需要に支えられ、現時点では家計消費などの需要項目は堅調に推移しているが、交易利得減少により、徐々に家計や企業の購買力が奪われ、消費、投資などの内需低迷につながることが懸念される。その一方で、豪州、カナダでは、交易利得増加がインフレの悪影響を緩和することが期待される。