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米国債:景気基調が明らかとなるまでは横ばい推移か

2022-06-06

■ 米政府はインフレ抑制を経済の最優先課題に据え、FRBの大幅引き締め継続への期待を示す

■ 一方、米10年国債利回りの上昇ペースは鈍化し、景気動向を見極めるまで横ばい圏で推移か


    米国では5月下旬より、個人消費の失速懸念とともに、米連邦準備理事会(FRB)がまだ具体的な方針を示していない9月以降の利上げペース鈍化観測が台頭した。ただし、政策面での動きはこのような観測に逆行する。バイデン米大統領は今週5月30日に米紙に寄稿し、労働者層の負担軽減や安定的な成長に向けてインフレ抑制を経済の最優先課題に据え、税制改革などで格差是正を推進する必要性を改めて主張した。翌31日のパウエルFRB議長、イエレン米財務長官との会談でもこの方針を伝え、財政・金融政策への期待を明確にしている。

   そもそも、大幅な金融引き締めが迫られているのは、これまでFRBが低金利を継続して意図的に景気過熱を促す「高圧経済(High pressure economy)」政策を推進し、インフレ進行に対して金融引き締めが「ビハインド・ザ・カーブ(後追い)」となっているためである。すでに景気過熱が現実化し、インフレ目標を大幅に上回る物価上昇が続くなか、FRBは迅速に中立的な金融政策姿勢に移行する方針に転じている。少なくとも政策金利が中立水準に達する以前の9月時点で引き締めペースが緩められる可能性は低いと考えるのが自然である。なお、「高圧経済」政策の推進者であるイエレン米財務長官(前FRB議長)も5月31日に自身の物価予測の誤りを認め、FRBの現在の金融引き締めへの支持を表明している。

   このような政策姿勢とは対照的に、米10年国債利回りは、5月9日に3.20%超まで上昇後、同水準を下回る推移が続いている。FRBが想定するターミナルレート(利上げの最終到達点)を上回り、消費者物価指数など主要物価指標の前年比上昇率や期待インフレ率(米10年物価連動国債のブレークイーブン・インフレ率)がピークアウトしつつあるなど、3月以降続いてきた上昇基調の転換を示すデータが増えている。利回り上昇に歯止めがかかる一方で、当面は大幅な金融引き締めが続くため、直ちに低下基調を強めることも見込み難い。米景気が「ソフトパッチ」と呼ばれる一時的な減速に踏みとどまるのか、今後一段と減速基調を強めるのか、景気の基調が明確になるまで、米10年国債利回りは3.0%を中心に横ばい推移が続くと考えられる。
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