景気急減速シグナルはどこで点灯しているのか
2022-05-25
■ OECD景気先行指数は景気の急減速こそ示唆しないが、減速ペースには地域差が生じつつある
■ ウクライナ情勢の影響が景気、物価に強く表れるユーロ圏は景気急減速の警戒シグナルが並ぶ
米小売大手の決算発表で業績下振れや見通し引き下げが相次いだことは、米経済のけん引役である個人消費の失速懸念に波及した。先週公表された4月の米小売売上高では物価上昇率を上回る増勢が保たれていることが確認されたものの、大幅な金融引き締めの継続、中国での都市封鎖、ロシアへの経済制裁などにより景気抑制圧力が強まることが見込まれるなか、景気減速懸念がにわかに高まっている。
これらの環境変化が生じる以前から、循環的な景気減速の兆候が観測されており、世界的に景気回復の勢いには陰りがみられていた*1。6-9カ月程度先の景気動向の捕捉を企図した経済協力開発機構(OECD)景気先行指数(CLI)は、OECD加盟国全体で昨年7月をピークに下降が続き、成長サイクルの見通しは昨年10月に「ピークの可能性(Possible peak)」、同12月に「安定的な成長(Stable growth)」へ引き下げられている。昨秋以降、CLIは一定ペースでの低下が続いており、最新データの4月まで「安定的な成長」の判断が据え置かれている。同指標をみる限り、現時点では、景気減速感が今後急速に強まっていくことは示唆されない。
ただし、地域間では減速ペースに差が生じつつある。日本、米国ではCLIの低下に歯止めがかかっておりOECD加盟国全体と同様の「安定的な成長」が見通されているが、ユーロ圏は日米を上回るペースでの低下が続き「勢いを失った成長(Growth losing momentum)」と見通されている。センティックス投資家信頼感指数でも、ユーロ圏とドイツは5月に景気サイクルの判断が「後退(Recession)」へ引き下げられ、日本や米国の「下降(Downturn)」よりも減速感が強まることが見通されている。ユーロ圏は米国同様、深刻なインフレ(最新データの4月消費者物価指数:前年比7.4%上昇、3月生産者物価指数:同36.8%上昇)に直面し、石油、天然ガス価格高騰に加えて、工業製品、食品、サービスなどエネルギー以外の品目でもインフレ圧力が強まっている。ウクライナ情勢の影響が景気、物価の両面に強く表れ、欧州中銀(ECB)はインフレ抑制のために金融引き締めを進める方針へ明確に転じている。ユーロ圏では米国以上に景気の急減速を警戒すべき条件が揃いつつある。
*1 PRESTIA Insight 2022.01.20「世界経済:コロナ禍以降の循環的な景気回復が一巡」