米国株:ハイテク株には調整余地が残る
2022-05-24
■ 予想PERの水準調整は進んだが、調整余地は残る
■ 企業業績見通しが悲観に傾けば、株安圧力が強まるおそれ
先週末時点でナスダック総合は年初来27.4%下落となり、年初来安値を更新。2020年11月以来の水準まで下げ幅を拡大している。実質金利がプラス圏で定着していた2020年初めまで、ナスダック総合の予想PER(向こう1年予想一株当たり利益ベース)は概ね20-24倍で推移してきた。新型コロナ禍を受けて実施された米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和は、国債利回りを押し下げることで実質金利をマイナス化し、経済を下支えする狙いがあった。これに伴い、企業利益対比での株価水準は割高でも許容されるようになり、予想PERは30-34倍のレンジに切り上がった。足元ではFRBがインフレ抑制に向けて金融引き締めを急ぐなか、実質金利はプラスに転換。予想PERは再び20-24倍の水準に回帰し、先週末時点では22.5倍まで低下している。米10年国債利回りに頭打ち感が漂うなか、実質金利の上昇に起因して予想PERが一段と下押しされる公算は小さいと思われる。
こうしたなか、先週の米小売大手の決算を通じて、インフレによる企業業績の悪化が現実になったと投資家に受け止められ、新たな株価下落圧力となっている。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長はこれまで、景気後退を回避しつつインフレ抑制に成功する「ソフトランディングシナリオ」に自信を示してきたが、先週の米大手紙のインタビューで、インフレ率が低下するためには失業率が上昇する必要があるかもしれないと述べた。発言のトーンが変化しており、景気減速をいとわずインフレ抑制を優先する姿勢を一段と強めた格好となっている。
市場の企業業績見通しが悲観に傾けば、株価には一段と下落余地が広がりかねない。米金融取引業規制機構(FINRA)が17日に公表した4月のマージンデット(信用取引の買い残高)は7729億ドルと2021年10月(9358億ドル)から減少傾向にあるものの、新型コロナ禍に伴う株価急落時(2020年3月、4793億ドル)と比較すると依然として減少余地がある。5月に入り個人投資家の信用買いの手仕舞いが進んでいることが想定されるが、株価が急落し信用買いを維持できなくなれば、売り圧力が強まりさらなる株安を引き起こすスパイラルに陥るおそれがあることから、警戒したい。