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欧州経済:想定以上に堅調だが、今後は逆風が強まる

2022-04-28

■ ユーロ圏では、サービス業の業況改善が続き、景気は想定以上に底堅く推移している

■ ただし、将来的にスタグフレーションに陥る条件も揃いつつある


     2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州経済を巡る状況は一変している。ユーロ圏では、生産、消費などの実際の経済活動を示す指標(ハードデータ)の公表まで2カ月程度のラグを伴うため、現時点では、3月以降の経済状況は調査指標(ソフトデータ)が示す景況感、信頼感など、事業者、消費者、投資家のマインド変化に基づいて判断することになる。

    これらソフトデータは、ロシア・ウクライナ情勢の不透明感が著しく高まった3月に多くの指標が悪化した。しかし4月には、サービス業PMI(57.7、前月比2.1ポイント上昇)、消費者信頼感指数(速報値、マイナス16.9、同1.8ポイント上昇)、ドイツ(独)Ifo企業景況感指数(91.8、同1.0ポイント上昇)などが上昇した。昨冬の経済活動制限が緩和された結果、旅行、娯楽などの対面サービスを中心に消費は拡大しており、サービス業では業況改善が続き、消費者の急激なマインド悪化にも歯止めがかかっている。対照的に製造業では、原燃料価格高騰や調達・供給網の見直しにより業況が悪化しており、ウクライナ侵攻の影響は着実に及んでいる。独ZEW景気期待指数(マイナス41.0)、センティックス投資家信頼感指数(マイナス18.03)も大幅なマイナスに転落しており、投資家や市場関係者の間では将来的な景気減速への強い警戒が示されている。

   以上より、ユーロ圏経済は繰延需要に支えられ、サービス業を中心に想定以上の底堅さを示しているが、製造業では減速の兆候が表れていることがうかがえる。今後、価格転嫁によるコスト増や家計の実質所得減少がより明確になり、物価高騰の影響がサービス業にも及ぶことが見込まれよう。また、3月時点では政策の柔軟性を高めるにとどめていた欧州中銀(ECB)も、4月には目標水準を大幅に上回るインフレを抑制する必要性を認め、政策姿勢を修正しつつある。緩やかなペースで金融引き締めを進めていく方針を示しているものの、中立金利水準が低く、景気減速下で金融引き締めが進められるため、景気抑制作用が生じやすくなる。将来的にスタグフレーション(景気停滞下での高インフレ)に陥る可能性は、大幅な金融引き締めが進められる米国よりも高まっていると考えられる*1。

*1 3月10日開催分のECB理事会議事要旨では、厳しい経済シナリオでもマイナス成長が回避されることを理由に、スタグフレーションではなく「スローフレーション」と整理されたが、本質的には同義である。
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