米国株:実質金利が株価水準の位置取りを変えるか
2022-04-20
■ 米実質金利がプラス圏への転換を窺う
■ 実質金利がプラス圏で定着すれば、PERの適正水準が低下する可能性
米実質金利が転換点を迎えようとしている。米10年実質金利は18日には一時マイナス0.02%まで上昇し、新型コロナ禍により市場が混乱していた2020年3月以降で初めてとなるプラス圏が視野に入った。実質金利は米10年国債利回りから、市場の今後10年のインフレ期待を示す米10年ブレークイーブン・インフレ率(BEI)を差し引いて算出される。新型コロナ禍後の積極的な金融財政政策や供給制約の長期化懸念、ロシア向け経済金融制裁などによる原燃料価格の高騰を受けて、BEIは3月に3%台まで上昇した。こうしたなか、米連邦準備理事会(FRB)が3月にインフレ抑制を優先する姿勢を鮮明にしたことで、金融引き締め加速への思惑が強まると、米10年国債利回りが水準を切り上げ、実質金利のマイナス幅は急速に縮小した。
実質金利は投資家のリスク選好を示す株価収益率(PER)と密接な関係がある。理論株価を計算するモデルである割引キャッシュフローモデルでは、予想される将来のキャッシュフローを割り引いて理論株価を導出するが、実質金利の低下により割引率が低下する結果、理論株価の上昇、ひいてはPERの上昇につながる。実質金利がプラス圏で定着していた2020年初めまで、S&P500の予想PER(向こう1年予想一株当たり利益ベース)は概ね14-18倍で推移してきた。その後、新型コロナ禍を受けて2020年4月に実質金利がマイナス圏に落ち込むと、予想PERは20-23倍のレンジに切り上がった。今後、実質金利がプラスに転換し定着を探る展開となる場合には、PERの適正水準が引き下げられる可能性がある。今後のS&P500の動向は、PERの水準低下と一株当たり利益(EPS)の拡大基調のどちらが優勢となるかにより決することとなろう。