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中国:「経済の安定」の意味合いは前年から大きく変化

2022-03-10

■ 2022年の成長率目標は引き下げられたものの、足元からの成長再加速を目指している

■ 「経済の安定化」の意味合いは前年とは異なり、構造改革が優先される可能性は低そうだ


   中国では5日に第19期全国人民代表大会(全人代)が開幕し、初日の政府活動報告のなかで、2022年の経済目標が発表された。数値目標での主な変更点には、(1)成長率目標が前年の「6%以上」から引き下げられ「5.5%前後」に設定された点、(2)財政赤字(対名目GDP比率)が前年の「3.2%」からコロナ禍以前の2019年と同等の「2.8%」へ引き下げられた点、などが挙げられる。数値上は前年からの下方修正が目立ち、(1)に示されるように、中国政府は緩やかな成長減速を容認している。ただし、昨夏以降の企業・富裕層への締め付け強化に伴って、昨年10-12月期の実質GDP成長率は前年比4.0%まで鈍化しており、足元からは成長ペースの再加速を目指すことを意味している。(2)についても、財政の持続可能性を高めるため、特定国有金融機関や予算安定化基金などから資金移転することが寄与している。歳出額(前年比2兆元以上の増加)、中央政府から地方政府への移転(同1.5兆元増)を増やし、地方政府のインフラ投資を推進するための特別地方債発行枠も3.65兆元に据え置かれるなど、「積極的な」財政政策を継続する方針が掲げられている。製造業、中小企業、個人事業主を対象とした2.5兆元規模の税還付および減税など、包括的ではなく、対象を絞った財政支援を行う方針も明記された。また、金融政策についても、前年までの「穏健的な」政策が継続される。非金融企業・家計・政府部門の債務総額対GDP比率を示す「マクロレバレッジ比率」の安定、不動産業などに対する金融総量規制の方針が堅持された一方で、実質貸出金利の引き下げなどの追加緩和の実施が示唆され、緩和姿勢がやや強まっている。

    全体としては、前年までと同様に「経済の安定」を最優先させる方針が掲げられ、景気の急減速を回避するために財政・金融政策による景気下支えを重視する姿勢が明確となっている。ただ、マクロプルーデンス政策を重視し、景気過熱や信用膨張の抑制に主眼を置く方針を掲げていた前年とは、「経済の安定」が示す意味合いは180度異なる。中国では、今秋、5年に1度開催される第20期中国共産党全国代表大会の開催を控えており、習国家主席は鄧小平氏が定めた「2期10年まで」の慣例を破る3期目の国家主席就任を目指している。外部環境の不透明感が強まるなか、少なくとも今秋までは、前年の企業・富裕層への締め付けに象徴されるような構造改革が優先される可能性は低いと考えられる。  
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