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米国:インフレ高止まりを警戒し、金融引き締めへ

2022-03-04

■ 一般教書演説では看板政策による気候変動危機の克服を繰り返し訴え

■ FRBは地政学リスクに配慮しつつ、インフレ抑制姿勢を維持


    一昨日以降、米国で経済・金融政策を巡る重要な情報発信が2つ行われた。1つめは、バイデン米大統領による一般教書演説である。欧州各国などと実施したロシア向け経済・金融制裁から米国のビジネスと消費者を守るため、可能なあらゆる方策を講じると述べた。また、最優先課題は物価を抑制することと強調し、米国で製造する自動車や半導体を増やし、米国のインフラと技術革新への投資を拡大する方針を示した。看板政策である大型歳出法案「ビルド・バック・ベター(より良き再建)」の構想を今回の演説でも繰り返したが、民主党内の左派と中道派の内紛や野党・共和党との対立などにより事実上頓挫しており、実現に向けた道筋を見通しにくい状況となっている。なお、インフラ近代化を通じて、気候変動危機の壊滅的な影響を克服し、環境正義を推進することを目指すとした。エネルギー需給緩和に向けた米国内での投資不足の状況は継続する公算が大きく、インフレ高止まりへの懸念はくすぶる。

   2つめは、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長による米下院での半期議会証言である。ウクライナ情勢の悪化を受けて、世界的な景気減速懸念とインフレ高騰への警戒感が交錯するなか、FRBがインフレ抑制を優先して金融引き締めを進めようとするこれまでのスタンスを変化させるか注目された。同議長はロシアのウクライナ侵攻を「ゲームチェンジャー」として予測不可能な結果をもたらす可能性があると認め、米景気への影響は極めて不透明との認識を示しながらも、3月15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpsの利上げ支持を提案したいと明言。地政学リスクに伴う不透明感が強いなか、不確実性を高めることを避ける意向を示しており、市場の利上げ観測に沿った提案をしたと解釈される。また、3月の利上げが年内に実施が見込まれる一連の利上げの始まりになるという見通しを示したうえで、FF金利は現在のゼロ近辺から2.5%、もしくはそれを超える水準まで上昇することが必要となる可能性があると述べた。利上げの最終到達点が想定より低い水準になるとの市場の思惑が後退し、米長期・超長期国債利回りの低下を抑制する要因となるだろう。なお、インフレの高止まりが長引く場合はより積極的な利上げに動くとも述べており、FRBは地政学リスクの高まりに配慮するものの、インフレの上振れリスクに対する警戒姿勢を維持する方針が明確になったと判断される。
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