ウクライナ侵攻以降のFRBとECB高官発言を整理
2022-03-02
■ FRBは「3月に0.25%利上げ実施」の可能性が高いが、ECBは議論を先送りする可能性もある
■ ウクライナ情勢を受けて、インフレ高進への対応と金融システム安定のバランスが求められる
3月には欧州中銀(ECB)理事会が10日、米連邦公開市場委員会(FOMC)が15、16日に開催を控える。2月28日発行のPRESTIA Insight*1で指摘された通り、米連邦準備理事会(FRB)とECBは、金融市場の混乱を助長するような大幅な金融引き締めを推進することは難しいといえよう。本稿では、ロシア軍がウクライナ侵攻を開始して以降のFRBとECB高官の発言から、現時点での両中銀の政策スタンスを改めて整理したい。
FRB高官の間では、今のところ「ウクライナ情勢に関係なく、3月は利上げを実施」との見解でまとまっているようだ。2月23日以降、サンフランシスコ・リッチモンド・クリーブランド・アトランタ・セントルイスの各地区連銀総裁が、上記の見解に支持を表明した。一方、この間に年前半にかけた積極的な利上げ実施まで踏み込んだ高官は、従来のセントルイス地区連銀総裁にウォラーFRB理事が加わったにすぎない。さらに、この両氏においても「3月の0.5%利上げ実施」までは言及しなかった。そのため、3月2日と3日に開催されるパウエルFRB議長による議会証言でも、ひとまずは「3月の0.25%利上げ実施」までの予告にとどまると予想する。
ECB高官の間では、2月24日以降にベルギー・アイルランドの各中銀総裁が述べたように、利上げ実施の前段階とされる「7-9月期までに債券購入プログラム(APP)の終了」の決定を巡る議論に注目。ただし、ECBは2月24日に行った非公式会合で「ウクライナ情勢の経済への影響は、3月理事会で議論する」と表明した。また、最も金融引き締めに積極的とされるオーストリア中銀総裁は、翌25日にウクライナ情勢を受けてやや慎重姿勢に転じたと認めた。加えて、レーンECB専務理事は、ウクライナ危機によりユーロ圏の今年の実質GDP成長率見通しは0.3-0.4ポイント押し下げられる一方、今年のインフレ率予想は大幅に引き上げられる可能性を指摘した。3月のECB理事会では、インフレ高進への対応と金融システム安定のバランスを巡り、金融引き締めに関する議論は先送りされる可能性もある。
*1:PRESTIA Insight 2022.02.28_「ロシア情勢悪化に伴い金融政策を巡る不確実性は低下へ」