フォワードガイダンスと政策不確実性
2022-02-16
■ 金融引き締めへの警戒感が高まり、金融政策に関する経済政策不確実性指数が急上昇している
■ 今後の金融引き締めに関するフォワードガイダンスが存在せず、市場変動性を高めやすい
金融市場は、各国中央銀行の金融引き締めへの警戒感を強めている。筆者は、その主な理由を、中央銀行が今後の引き締めに関する有効なフォワードガイダンスを提示できていないことに求められると考えている。米連邦準備理事会(FRB)、欧州中銀(ECB)は、今後の金融引き締めについて、賃金など広義の物価関連指標に基づいて判断する意向を示している。
金融市場の警戒感を反映しているのが経済政策不確実性指数である。同指数は主要10紙で用いられる特定のキーワード検索に該当する記事数などに基づいて算出される。米国の月次指数では、金融、財政、通商、安全保障、ヘルスケアなど政策分野ごとの推移が時系列で確認できる*1。直近では、トランプ政権下で対中貿易摩擦が懸念された2018-2019年にかけて貿易指数、新型コロナウイルス感染が急拡大した2020年3-5月にかけてヘルスケア指数がそれぞれ急上昇するなど、時々の経済政策に対する不確実性を反映してきた。コロナ禍以降、大半の政策分野の指数は趨勢的な低下が続き、指数全体ではコロナ禍以前の水準に収束しつつあるが、金融政策指数は昨年12月に急上昇し、不確実性が高まっていることを示している。過去、金融政策指数が急上昇した時期をみると、2016年11月(翌12月にFRBが約1年ぶりの利上げ再開を決定)、2018年12月(翌2019年1月にFRBが利上げ打ち止めとともに「自動操縦」としてきた保有資産縮小の柔軟化を決定)、2019年6月(同月、FRBは経済見通しを下方修正し、将来的な利下げを示唆)、2020年3-4月(コロナ禍での緊急対応)のいずれも政策修正を伴っており、政策予見性の低下が指数の急上昇に寄与したことがうかがえる。
リーマンショック以降の金融政策では、フォワードガイダンスが政策ツールとして定着し、緩和効果を強化するとともに政策予見性を高めてきた。しかし、政策方針の転換期においては、時々の経済状況に応じて政策調整を進めざるを得ない。中央銀行が実効性の高いフォワードガイダンスを示すことは難しく、FRB、ECBともにこの問題に直面している。今後、金融引き締めに着手し、経済の混乱を生じさせないペースが定まれば、引き締め局面でもフォワードガイダンスの有効性は徐々に高まっていくだろう。フォワードガイダンスが存在しない現在が金融政策への疑心暗鬼が最も広がりやすく、市場変動性を高めやすい局面であると考えられる。
*1 なお、日次データは昨年12月に2020年3月以来の水準まで急上昇したが、公表元が、昨年12月以降、日次データ算出には技術的な問題が生じていることを公表しており、今回の分析対象外とした。