金融政策の陰の主役となりそうな2022年の政治日程
2022-01-06
■ 高インフレは、家計部門の購買力減少や格差拡大を促すため、政治課題となりつつある
■ 2022年は各国で選挙が予定されており、政治日程が金融政策に影響を及ぼし得る
昨年後半に世界各国で歴史的水準に達したインフレは、2022年も引き続き強い関心が向けられそうである。物価は景気同様、日々の経済活動を通じて変動するものだが、主な変動要因は、(1)需要要因、(2)供給要因、(3)貨幣要因に分けられる。
(1)は需給ギャップで計測され、経済全体の需要の過不足を均衡させる過程で価格調整が進むことを指す。(2)は原材料価格の変動を製品価格に転嫁することで生じる。足元で広がっている値上げは需要要因や貨幣要因も影響しているが、原材料価格の高騰に起因するものが多く、主に供給要因に分類される。(3)は経済規模に対する貨幣供給量の多寡が影響する。経済活動で必要とされる以上の貨幣が市中で流通すれば、経済で取引される財・サービス価格には上昇圧力が生じる。
物価変動の問題は所得や富の移転を促す点である。インフレは、貨幣保有者の購買力や実質的な保有資産価値の目減りを招く一方で、債務者の負担軽減につながる。前者は家計部門、後者は政府部門が中心であり、家計から政府へ富の移転が促されるとともに、家計部門のなかでも購買力や資産価値の保全手段を持つ者と持たない者の格差が広がる。したがって、物価変動自体が問題ではなく、それを通じた家計の購買力減少や格差拡大が真の問題である。金融政策で物価の安定が目標に据えられるのはこの弊害を抑制するためであり、米国や英国は、昨年末にインフレ抑制へと政策姿勢を改めた。家計部門の困窮や格差拡大は社会不安や社会の分断につながり得る問題であるため、物価高騰は今や経済的な問題にとどまらず、政治課題に変わりつつある。
2022年の政治日程をみると、米国は11月に中間選挙を控えており、昨年末の金融政策姿勢の転換は政策運営の柔軟性を確保することも一因であった可能性がある。また、日本、フランス、豪州など多くの国でも国政選挙や大統領選挙を控えており、現在、これらの国では金融引き締めに慎重な姿勢が保たれている。政治的中立性の観点から選挙直前で金融政策が見直されることは想定しづらい一方、選挙後に新政権の下で金融政策姿勢が見直されることは十分想定される。2022年は、政治日程が金融政策判断に影響を及ぼし得る点は念頭に置いておく必要があろう。