新興国株式:ハイリスクだが、過度な悲観は避けたい
2021-12-27
■ 2021年の新興国株式市場は、南米とアジアの騰落率が大幅なマイナスに
■ 2022年はインフレと新型コロナの動向次第で、年後半に新興国株式が選好される可能性も
本稿では、新興国株式市場の2021年の動向と2022年の見通しを整理する。MSCI指数(米ドル建て)で確認すると、2021年の株価騰落率(データは12月23日時点)は先進国(+19.2%)が新興国(マイナス5.5%)を大きく上回った。新興国の地域別では、欧州(+8.9%)が上昇したが、南米(マイナス14.9%)とアジア(マイナス7.6%)は大幅なマイナスが目立つ。
要因の一つとして、米ドルの総合的な実力を示すとされるドルインデックスは6.7%上昇と、2021年は米ドル高進行のあおりもあって、新興国通貨は軟調だったことが挙げられる。加えて、米連邦準備理事会(FRB)は12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2022年の利上げ見通し(予想中央値)を3回に引き上げるなど、金融引き締め姿勢を明確にした。2022年にかけても、米ドル高・米金利上昇が見込まれる点は新興国株式市場にとって逆風となり得る。
一方で、企業業績を示す一株当たり利益(EPS)を確認すると、必要以上に悲観的にみる必要はないと考える。12か月先予想EPSの年初来上昇率は、確かに先進国(28.9%)に比べて新興国(15.3%)は見劣りするが、地域別では欧州(47.4%)、南米(30.8%)、アジア(10.1%)となった。また、国際通貨基金(IMF)が今年10月に発表した世界経済見通しでは、2022年の成長率は新興国(+5.1%)が先進国(+4.5%)を上回るとされた。
2022年も市場全体の見通しとしては、「先進国株式を新興国株式よりも優位」とする見方を維持する。新興国株式がハイリスクな投資対象であるとの認識に変わりはない。ただし、ハードルは高いものの、直近の世界的なインフレ高進や新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた場合、年後半にかけて新興国株式へ資金還流が起こる可能性は考慮しておくべきと考える。その際は、投資対象の選別が求められよう。地域独自のリスク要因は、欧州がウクライナ情勢、南米がブラジルのスタグフレーション懸念、アジアは米中対立などが挙げられる。また、政策金利の動向からは、今年ロシアとブラジルが物価上昇の対応に伴い7会合連続の利上げを実施するなど、欧州と南米では金利上昇に伴う景気減速リスクが相対的に大きいとみている。前述のIMF見通しでは、インド(+9.6%)とASEAN-5(+5.8%、タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム・フィリピン)の成長率予想が他の主要新興国を上回っている。