どうして金融市場では利上げが警戒されるのか
2021-12-24
■ 金融市場が利上げを警戒するのは、金利上昇がすべての資産価格への下落圧力を強めるため
■ 長期的観点では、物価に連動して収益増加が期待される資産ほど影響を緩和することができる
先週以降、金融引き締めが警戒され、金融市場では不安定な値動きが続いている。どうして金融市場では利上げが警戒されるのか。この疑問を突き詰めていくと、ファイナンス理論に基づく金利と資産価格の関係に行き着く。筆者は、金利と資産価格に関する関係は、今後の金融市場で一段と重要な意味合いを持つようになると考えている。
利上げとは政策的な市場金利上昇の推進であり、中央銀行が、物価安定などの政策目的を達成するために引き締め的な政策調整を必要とする経済環境である、と認識していることを意味している。したがって、利上げを市場金利上昇に対する中央銀行のコミットメントと読み替えても大きな相違はない。では、どうして金融市場は市場金利の上昇を警戒するのか。それは、金利以外の条件が変わらないと仮定すると、基本的にすべての資産価格に対する下落圧力が強まるためである。金利上昇により資産価格が下落するメカニズムは、金利が現在と将来の貨幣的価値の交換レートの役割を果たしている点に基づく。
ファイナンス理論では、すべての資産価格は、その資産から将来的に生み出すことが期待される収益(将来価値)を現在時点において評価したもの(現在価値)であり、その時点の金利によって、将来価値を現在価値に割り引いて評価される(ディスカウント・キャッシュフロー法)。すなわち、資産価格とは、金利という尺度に基づいて、将来の期待収益が現在時点に反映されたものだといえる。金利上昇とは将来価値がより大きく割り引かれることを意味するため、将来的に収益増加が見込まれなければ、現在価値である資産価格は目減りすることになる。これは、株式、債券、不動産などの資産クラスを問わずすべての資産価格に対して影響する。
金利上昇を促すような政策調整が進められるなか、金利変動が資産価格に及ぼす影響が増し、すべての金融資産はより明確な下落圧力に晒されることが見込まれる。この影響を緩和・相殺するには各資産が生み出す将来の収益が増加する(ことが期待される)必要がある。金融引き締めの主因が高インフレであることを踏まえると、物価に連動して将来収益が増加することが期待される資産については金利上昇への耐性を一定程度備えている。半面、確定利回り資産は金利上昇への耐性が弱く、影響を受けやすい点を意識する必要があろう。