ECBはインフレ対応よりも政策調整余地確保を優先へ
2021-12-13
■ ECBは、2022年初でのインフレピークアウト、同年末でのインフレ目標への収れんを見込む
■ インフレ対応への政治的要請も高くなく、ECBの関心は政策調整余地の確保に向いている
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、11月30日に物価高騰を「一過性」の現象としてきた従来の認識を修正し、金融政策正常化の加速へと政策姿勢の舵を切ることを強く示唆した。今後、FRBと同様の物価認識を示してきた他の先進国中銀にも政策姿勢に変化がみられるのか注目される。
特に注目度が高いのが欧州中銀(ECB)の対応である。11月30日以降、多くのECB高官が物価、金融政策に関して言及している。12月3日、ラガルドECB総裁は、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を予定通り3月末に終了する考えを示す一方で、2022年は利上げの可能性が低いことを改めて表明した。12月8日には、デギンドスECB副総裁が、2022年末にインフレ目標に近づき、2023年以降の利上げ開始を見込む従来の認識を維持した。ただ一方で、2022年に賃金上昇ペースが加速することを見込み、2022年初めに物価がピークアウトした後もインフレ目標への収れんに時間を要する可能性を認めている。その他のECB高官の発言内容を踏まえても、ECBはリスクシナリオとして物価高止まりへの警戒を強めつつも、メインシナリオでは引き続き、2022年初めにインフレがピークアウトし、2022年末にインフレ目標である2%へ低下することを想定している模様。11月30日以降、直接的な言及は避けられているものの、現在の高インフレを一時的な現象と捉える認識には大きな変化はみられず、利上げ開始は物価高騰が沈静化する2023年以降の物価動向に基づいて判断する姿勢がうかがえる。
来週16日のECB理事会では、2022年3月末に期限を迎えるPEPPの終了の是非、およびPEPP終了後の対応が検討される。対応策として、既存の資産購入プログラム(APP)の一時的な規模拡大の協議やPEPPで購入した債券の満期償還金の再投資先の柔軟化などが協議されることが9日報じられた。欧州では、新型コロナウイルスオミクロン株感染が急拡大しており、行動制限が強化されつつある。経済への影響の見極めに時間を要するため、ECBの関心は政策対応の余地を確保することに向けられている。米国とは異なり、現時点ではインフレ対応への政治的要請も高まっていないため、直ちにFRBに追随する可能性は低いだろう。