FRB議長人事を経て、利上げに関する対話開始へ
2021-11-30
■ パウエルFRB議長は、再任後の金融政策について、改めて説明責任を負った
■ インフレ対応が政治問題化するなか、金融政策正常化の前倒しも無視できなくなっている
22日、バイデン米大統領は、次期米連邦準備理事会(FRB)議長に、現任のパウエル氏を指名した。ウォーレン上院議員など米民主党急進派の一部は、パウエルFRB議長の再任に反対しているが、反対への支持は伸びておらず、米上院議会で承認される可能性が高い。
パウエルFRB議長の再任後の最重要課題は、政治問題化しつつあるインフレへの対応である。バイデン米大統領は、指名会見でパウエル氏指名の理由を「我々の家族、経済に課されているインフレの脅威に対処し、完遂するために適任だと信じている」と述べており、米政権からのインフレ対応への要請の強さがうかがえる。当面の金融政策運営では、雇用最大化よりも物価安定への比重が高まろう。金融市場で2022年半ばの利上げ開始が織り込まれるなかでも、パウエルFRB議長は、現在の任期である2022年2月以降の金融政策に関して明確な言及を避け続けてきた。物価高騰が一過性の現象であるという説明は建前であり、次期FRB議長が決まらないなか、自身の見解によって新たな執行部の元での金融政策運営を制約してしまうことへの配慮が本音(真の理由)だったと推測される。
パウエルFRB議長にとって、自身の再任は、2022年2月以降の金融政策について、改めて説明責任を負うことを意味する。FRBが利上げ開始時期などに関して具体的なガイダンスを示す素地が整ったと考えられ、コミュニケーションの論調が変化する可能性を認識しておく必要がある。奇しくも、11月2、3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降、複数のFRB高官がインフレへの警戒感を強めており、24日に発表されたFOMC議事要旨では、複数の参加者が金融政策正常化の前倒しを主張していることが明らかとなっている。今後、パウエルFRB議長ら執行部が見解を明確にすれば、金融政策正常化の前倒しが多数派に転じることも十分考えられる。インフレ抑制という政策課題の優先順位が上がり、パウエルFRB議長の任期延長により金融政策運営の柔軟性も得られた。先週末に新型コロナウイルスオミクロン株の感染拡大という新たな不確実性が浮上したため状況は複雑化しつつあるものの、これらを踏まえると、資産購入の段階的縮小(テーパリング)完了や利上げ開始の前倒しという選択肢も無視できなくなっている。