News

10月ECB理事会の議事要旨:市場との対話に苦戦

2021-11-29

■ 10月ECB理事会議事要旨では、物価上昇への警戒と市場との対話に苦戦する様子がみられた

■ ECBは「来年の利上げ実施は時期尚早」としており、FRBとの政策姿勢の違いが意識されよう


    本稿では、11月25日に公表された欧州中銀(ECB)議事要旨(10月27、28日開催分)について整理する。10月下旬時点の欧州短期金融市場では、ECBが2022年末までに0.10%の利上げを実施すると織り込まれていた。ただ、10月理事会後に行われた記者会見で、ラガルドECB総裁はそうした市場の見方を否定していた。
    今回の議事要旨では、欧州の物価上昇リスクに対する警戒と市場との対話に苦戦する様子が確認された。9月のECB理事会でECBスタッフによる物価上昇率見通しは、2021年が1.9%から2.2%へ、2022年は1.5%から1.7%へ、すでに上方修正されていた。しかし、10月理事会では、そこから一段と上振れるリスクまで議論されていたことがわかった。ただ、12月理事会までの間に物価上昇を巡る不確実性に結論を出すことは難しく、複数の高官が金融政策の方針は選択肢を確保するべきとの見解を示した。一方で、12月理事会では来年3月に終了予定のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を巡る議論が進むとみられるが、PEPP終了後の方針を含めて、手掛かりとなる材料は確認できなかった。
    市場との対話については、短期金融市場での2022年の利上げ織り込みを巡って、思いの外、苦戦している様子が確認された。議事要旨によれば、最初の利上げ実施に関するECBのフォワードガイダンスに対する誤解によるものと指摘。背景の一つとしてECBのフォワードガイダンスに対する信頼性が低いとの議論も交わされており、11月に入ってもラガルドECB総裁が来年の利上げを強く否定し続けるのは、短期金融市場へ向けた対話の一環と、筆者は解釈している。また、物価上昇リスクへの懸念については、シュナーベルECB専務理事をはじめ、複数の中銀総裁が従来よりも深刻に捉えていることを指摘するなどして、市場との対話を進めている。今後は、新型コロナウイルスの感染再拡大がもたらす欧州景気への悪影響を巡る議論にも注目が集まろう。「来年の利上げ実施は時期尚早」とするECBと、金融引き締めへ前向きになりつつある米連邦準備理事会(FRB)との政策姿勢の違いは、徐々に金融市場で意識されることになるとみている。
TOP