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中国経済:金融政策に変化の兆候

2021-11-17

■ 中国では小売売上高、鉱工業生産の減速に歯止めが掛かる一方、固定資産投資は低迷

■ 貨幣の市中流通量には復調の兆しがみられ、金融当局の政策姿勢にも変化がみられる


   10月分の中国の主要経済指標が概ね出揃った。主要経済指標では、小売売上高(前年比4.9%増)が2カ月連続、鉱工業生産(同3.5%増)が8カ月ぶりに小幅ながら増勢を強めた。両指標は前月比(小売売上高:0.43%増、鉱工業生産:0.39%増)でも9月より伸びが加速しており、10月下旬以降、各地で新型コロナウイルス感染再拡大により経済活動が制限されるなかでも、個人消費や生産の減速に歯止めが掛かりつつあることがうかがえる。環境規制強化や固定資産投資抑制の影響により粗鋼、鋼材、セメントは大幅減少が続いているものの、電力不足の影響が緩和し、電気、熱、ガス、水の生産・供給が復調。また、新型エネルギー自動車、産業用ロボット、集積回路などのハイテク分野では大幅増が続いている。ただし、固定資産投資(農村部除く、年初来前年比6.1%増、前月比0.15%増)は前年比での鈍化が続き、前月比でも9月と同等の伸びにとどまっている。過剰債務問題が続くなか、不動産投資を中心に伸び悩んでいる。

   10月に特筆すべき点は金融環境の変化である。金融統計では、マネーサプライ(M2、前年比8.7%増)が7カ月ぶりの伸びを示し、人民元建て新規融資(同11.9%増)、社会融資総量残高(同10.0%増)の増勢鈍化にも歯止めが掛かった。不動産などに対する投機的行動の抑制を目指して、景気減速下でも引き締められてきた金融環境が緩和的に転じつつあることが明らかとなった。中国人民銀行は、9月27日の金融政策委員会にて不動産市場の健全な発展を守る方針を表明し、政策運営の柔軟化を示唆した。また、「三道紅線(3本のレッドライン)」と呼ばれる不動産融資基準(総負債対総資産比率70%以下、純負債対自己資本比率100%、現金短期債務比率100%)を満たす企業への融資姿勢など、金融機関への指導方針を改めていることなども伝わっている。不動産業では債務削減(デレバレッジ)が続くことが見込まれ、中長期的に固定資産投資が抑制される可能性が高い。その一方で、金融当局が債務問題の無秩序な調整を望まない姿勢が明確となり、景気の急減速や金融市場の不安定化など、危機対応に関する政策の信頼感が向上したと考えられる。


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