米国債:FOMC後の変則的な反応は何を示しているのか
2021-11-11
■ FOMCのテーパリング開始決定後、米国では金利低下とともに長短金利差が縮小
■ 金融引き締めサイクル初期の一般的な反応とは異なるため、定着するようならば警戒を要する
11月2、3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で2020年3月に再開された資産購入の段階的縮小(テーパリング)に着手することが決定され、米金融政策は緩和から引き締めへの転換が明確になった。米連邦準備理事会(FRB)は、6月15、16日のFOMCでテーパリング協議の開始や将来的な利上げなどの政策転換を示唆し、金融市場との対話を進めてきたため、金融市場では大きな動揺はみられなかった。
金融引き締めサイクルへの転換初期では、通常、将来の追加引き締めが織り込まれ、残存2-5年などの中期国債利回りを中心に上昇圧力が強まる。また、長期・超長期国債では最終的な利上げ到達点(ターミナルレート)までの利上げを織り込む動きが進み、中立金利水準に向けて利回りが上昇するのが一般的な反応である。
ところが、先週のFOMC以降、金融市場では、上記とは異なる反応が示された。事前に2022年後半に複数回の利上げが織り込まれていたため、パウエルFRB議長が利上げに「忍耐強く」取り組む意向を示したことを踏まえて、米国債市場で織り込み修正が進んだのはFRBの対話に沿った動きと整理できる。ただし、長期・超長期国債利回りが中期国債よりも大幅に低下し、イールドカーブのブルフラットニング(金利低下時の長短金利差縮小)が進行。同時に、物価連動国債の長期・超長期年限のブレークイーブンインフレ率(BEI)は上昇が続いている。米国のターミナルレートは、FOMC参加者の政策金利見通しでの長期の政策金利水準である2.50%とみられており、長期・超長期国債利回りがターミナルレートを大きく下回る水準で上昇に歯止めが掛かる一方で、長期の期待インフレ率の上昇が続いているのは変則的な動きである。筆者は以前「金利上昇に対する警戒を強めるべきなのは、イールドカーブがフラット化に転じる局面」だと指摘しており*1、米長期金利上昇には歯止めが掛かっているものの、金融政策転換のタイミングでフラットニングが進行しているのは、同様の警戒を要すると考えている。一時的な揺らぎであれば杞憂だが、定着するようならば、景気減速のシグナルである可能性も考慮する必要があろう。
*1 詳細は PRESTIA Insight 「イールドカーブと景気循環」(2021年3月24日)