ECB理事会プレビュー:議論の方向性は、まだ不透明
2021-10-27
■ ユーロ圏の短期金融市場では、来年末までの0.10%の利上げ実施が織り込まれた
■ ただ、ECB内で複数の議論の方向性が固まるのは、少なくとも12月まで持ち越される見込み
10月28日に欧州中銀(ECB)理事会が開催される。市場予想では現行の金融政策が維持される見込みだが、前回に続いて、先行きの金融政策の方向性について注目が集まるとみている。最も注目されるのは、足元の物価上昇を巡るECB内の議論の行方であろう。10月25日発行のPRESTIA Insight *1で示されたテーマは、米国に限らず欧州でも注目点となっている。
本稿執筆時点の欧州金利市場は、英国の早期利上げ観測が波及するなかで金利上昇圧力が強く、短期金融市場では、ECBによる2022年末までの0.10%の利上げ実施が織り込まれた。背景には2014年以来の高水準を維持する期待インフレ率などが挙げられるが、10月7日に公表された9月理事会の議事要旨で、ECB内部のインフレ高進懸念が示された点も大きいとみる。具体的に、9月理事会後の記者会見でラガルドECB総裁は、供給制約がもたらすインフレ高進は一時的とした一方、議事要旨では、価格高騰の期間や規模次第でインフレ高進第2弾へつながる可能性が指摘された。折しも、金融引き締めに最も積極的とされたバイトマン独連銀総裁が、「個人的な理由」で退任を発表した直後でもある。ECB内のコンセンサスを巡り、理事会後に実施されるラガルドECB総裁の記者会見では、質問が集中するとみられる。
他にECB独自の材料では、物価上昇を巡る議論のほかに、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)終了を巡る議論にも注目したい。PEPPは総額1兆8500億ユーロで設定され、2022年3月末時点までの時限措置である。PEPP終了後、通常の資産購入プログラム(APP)のみの稼働となる際、特に(1)キャピタルキー条項(各国中銀のECBへの出資比率に基づく債券購入)と、(2)適格資産(投資適格級)を巡る規定が論点となろう。PEPPはこうした制限を特例で撤廃していた。例えば、投機的格付であるギリシャ国債の扱いだ。APPでは購入対象外だが、(2)の制限撤廃でPEPPでは購入対象だった。こうした制限は無い方が景気支援策として望ましい一方、ECBのバランスシートの健全性を考慮するならば、制限を課すべきとなる。なお、事前報道では、APPの買入枠増額などを軸に代替案が検討されている模様。各国の中銀総裁はそれぞれの国内事情を考慮しつつ議論を進めてきたとみられるが、方向性が固まるのは少なくとも12月まで持ち越される見込み。
*1:PRESTIA Insight「乖離が広がる中央銀行と金融市場の物価認識」