乖離が広がる中央銀行と金融市場の物価認識
2021-10-25
■ 金融市場では、物価連動国債のBEIが上昇基調を強める
■ ただし、中長期的なインフレ基調が安定している限り、中央銀行が早期対応に動く可能性は低い
足元で進行しているインフレに対して、中央銀行と金融市場の間で見解が乖離しつつある。中央銀行は、物価見通しを引き上げつつも、高インフレは一時的な現象であり、来年にはピークアウトしインフレ目標の水準に収束するとの見通しを堅持している。英国のように政策対応を示唆する国も現れ始めたが、米国、ユーロ圏、豪州など多くの中銀は政策対応に慎重な姿勢を保っている。
対照的に金融市場で織り込まれる中長期的な期待インフレ率である米10年物価連動国債のブレークイーブンインフレ率(BEI)は10月以降上昇ペースが加速し、2005年以来の高水準を連日更新している。供給制約の長期化、労働需給の逼迫、原材料価格高騰などの外部環境に加えて、変動の大きな項目を除いた消費者物価指数(CPI)の刈り込み平均値などの経済指標でも、インフレのすそ野拡大や持続的なインフレに対する懸念を裏付けるデータが増えている。
米連邦準備理事会(FRB)は基調的インフレの判断基準として、自ら公表する共通インフレ期待指数(Index of Common Inflation Expectations、以下CIE)を注視している。CIEは米国のインフレ期待を示す複数の経済指標の共通項を抽出し、インフレ期待の基調の可視化を試みた指標である。先週15日公表の最新データをみると、7-9月期は2.06%となり、5四半期連続で上昇した。ただし、上昇ペースは直近3四半期より鈍化し、基調的なインフレは緩やかな上昇にとどまっている。3四半期連続でインフレ目標である2%を上回っているものの、2014年まで恒常的に2%超で推移していることを踏まえると、直ちに基調的なインフレに関する判断を修正する可能性は低いと考えられる。平均物価目標が導入され、インフレ目標の一時的な上振れを許容する方針を示しているなか、早期の政策対応は見込みづらい。
両者の見解の乖離は見通している時間軸の違いに起因しており、早期解消が期待しづらい。乖離が広がるほど政策変更時の影響が大きくなるため、金融市場の潜在的な混乱要因となり得ることには注意が必要だろう。