豪ドル:緩やかな上昇を想定する
2021-10-15
■ 足元で豪ドルは底堅く推移するが、(1)経済活動制限の緩和期待と(2)豪金利上昇に注目したい
■ 他方、悪材料では中国の動向がポイントになるとみており、豪ドルは緩やかな上昇を想定する
今年8月時点で豪ドルは、対米ドルと対円でいずれも年初来安値(0.7104米ドル、77円86銭)まで値を崩していた。この間、豪中銀(RBA)の金融緩和姿勢が豪ドルの重しとなったことに加え、6月中旬以降に新型コロナウイルスの新規感染者数が急増し、主要都市のシドニーやメルボルンなどで経済活動制限措置が再導入されたことも、豪ドル安が進んだ要因とされていた。ただ、直近では9月安値(0.7168米ドル、78円82銭)から、0.73米ドル台後半と83円台後半へ切り返しており、豪ドルは底堅い展開に移行している。流れが変わった背景は(1)経済活動制限の緩和期待と、(2)豪国債利回りの上昇、の2点とみている。
(1)は、8月22日にモリソン豪首相が新型コロナ対応方針を「抑制から共存」へ変更して以降、ワクチン接種率が急上昇した事実が挙げられる。豪州では、今年6月以降の新型コロナ感染再拡大に伴う方針変更から、1回目以降のワクチン接種率*1が69.46%まで上昇している。RBAは10月理事会の声明文で、ワクチン接種率の上昇が景気再拡大へのポイントとしており、年末にかけて豪景気が回復へ向かうとの市場の思惑は豪ドルを支えよう。
(2)では、9月下旬以降の豪国債利回りの上昇が金利面で豪ドルを支える。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)をきっかけに、主要先進国で政策金利引き上げの思惑が強まったことが、豪州にも波及したとみられる。そうしたなか、9月22日時点でマイナス0.03%だった豪米10年国債利回り差はその後の3週間で逆転し、10月13日時点で豪州が0.11%上回っている。同様に、豪日10年国債利回り差は1.22%から1.57%へ急拡大した。こうした豪国債利回りの上昇が、対米ドルや対円での豪ドル高につながっているとみる。
一方で、悪材料では引き続き中国の動向がポイントとみている。「QUAD(日米豪印4カ国戦略対話)」や「AUKS(米英豪の安全保障パートナーシップ)」など、西側諸国との同盟強化が豪中対立につながるほか、最大の貿易相手国として中国の景気鈍化懸念は、目先豪ドル安要因として意識されよう。新型コロナの感染抑制についても、まだ不確実性が高い状況だ。豪ドル米ドルは9月高値(0.7477米ドル)、豪ドル円は5月高値(85円80銭)が次の上値メドとなろうが、こうした悪材料が上値を抑える要因となるなか、当面の間は緩やかな上昇を想定する。