ドイツ下院総選挙:「メルケル後」の主役を決める
2021-09-14
■ 今回の独下院総選挙では、複数の党に国民の支持が分散する可能性が高いとみられる
■ メルケル現首相の政界引退も相まって、独の政治は転換点を迎えることになろう
本稿は、9月26日に実施されるドイツ(独)下院の総選挙について、注目点を整理する。本選挙は4年に一度行われ、政権を決める重要なものだ。ドイツの現与党はメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(以下、CDU・CSU)と、連立を組むドイツ社会民主党(以下、SPD)。ただし、メルケル首相は政界引退を控えて本選挙は不出馬を表明している。そうしたなかで、CDU・CSU、SPDに緑の党を加えた3つの党が、支持率トップを争っている。注目点は(1)次期首相候補の動向と、(2)連立政権の組み合わせ、の2点とみている。
(1)は、CDU・CSU党首のラシェット氏、SPD党首で現財務相のショルツ氏、緑の党共同党首のベアボック氏の3名が有力候補だが、現時点で最も高支持率はSPDのショルツ氏。党は違うが「メルケル路線」を最も色濃く継承するとみられていることに加え、ラシェット氏やベアボック氏が自身の失策で支持率を落としたことも、ショルツ氏の高支持率につながっている。こうした党首の人気が党本体の支持率にも反映され、9月2日に独公共放送が行った世論調査では、SPDの支持率が25%、CDU・CSUが20%、緑の党が16%と続く。注目は上位2つの党の支持率を合計しても50%に達しないことであり、7月に独西部で大洪水が発生したこともあり、気候変動対策を巡っても支持が分かれている。SPDとCDU・CSUの2党連立政権が変わらなければ安心感が広がろうが、総選挙後の連立政権が3党連立となる可能性も残る。
そこで(2)が次の注目点として挙げられる。現与党の一つであるSPDと、緑の党を中心とした左派の連立政権が誕生するとの見方も強まっている。その場合、与党の基本姿勢が従来の財政緊縮路線から、成長を志向した財政拡張路線に転じることも視野に入り、独政治は転換点を迎えることになろう。なお、前回の総選挙で野党第一党となった「ドイツのための選択肢(AfD)」は極右政党だが、今のところ同党と連立を組む政党はないとみられる。
金融市場への影響としては、メルケル氏の政界引退による強力な指導者不在に加えて、3党での連立政権誕生となれば、独政治の不安定性がユーロにとって逆風となり得よう。さらに、欧州中銀(ECB)の金融緩和姿勢継続と米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測が高まれば、独総選挙後にユーロ安基調が強まる可能性もあろう。