米国は危機対応から正常化へ漸進
2021-09-10
■ 6日に全米50州で失業保険給付の特別加算が終了した
■ 雇用の増勢鈍化でもテーパリング年内開始は揺るがず、関心はその先の利上げ時期にシフトか
米国では、3月に週300ドルへ減額のうえで約半年間延長された失業保険給付の特別加算措置が6日に満了を迎え、全米50州で打ち切られた。共和党系知事の統治州を中心に26州では先行して打ち切られていたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際に導入された緊急対応の一つが正常化されたことになる。失業保険給付の特別加算は、昨年の都市封鎖後の失業者急増に対して強力なセーフティーネット(安全網)として機能し、景気の底割れを防ぐともに、個人消費の早期回復に寄与した。一方で、経済再開後はその弊害も目立つようになった。特別加算によって失業保険の給付金が一部業種の賃金を上回る状態となり、低賃金業種のレジャー・接客業、小売業、運輸・倉庫業*1などの求職者数が伸び悩んでいる一因と指摘される。これら業種では平均時給の上昇率が高く、経済再開に伴って労働需要が増加していることは間接的に示されるものの、労働力の確保に苦慮し、事業再開の障害となっていることがうかがえる。今晩公表の米週間新規失業保険申請件数(9月4日終了週)でこの影響が表れる可能性は低いものの、来週以降に公表されるデータでは、失業保険給付の特別加算により抑制されてきた潜在的な求職者の規模が明らかになってくるだろう。
3日に公表された8月の米雇用統計での雇用の増勢鈍化を受けて、9月21、22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、資産購入の段階的縮小(テーパリング)開始の判断は先送りされる可能性が高まった。ただ、雇用統計公表後の米連邦準備理事会(FRB)高官の見解には大きな変化はみられない。労働需要の減少ではなく労働需給の不一致に起因する点を念頭に置くと、FRBが市場との対話を進める年内テーパリング開始を取り下げることは想定しづらい。テーパリングの年内開始は市場でも織り込まれ、関心はすでにその先の利上げタイミングの見極めにシフトしつつある。現時点では労働市場の回復をはじめとする「経済の進展」が焦点となっているが、利上げ時期の判断では、平均時給を含めた物価動向や中長期的なインフレ期待が論点の中心となる。インフレ加速が一過性の現象なのか、構造的要因にも基づくものなのか、データで明らかになるとともに改めて物価動向への注目が集まると考えられる。