J-REIT:上昇局面からの基調転換の可能性も
2021-08-30
■ 日経平均株価に遅れて、東証REIT指数がピークアウトしつつある
■ コロナ禍以降、不動産市場のファンダメンタルズは悪化し、中期的な転換点を通過した可能性も
国内不動産投資信託(J-REIT)の代表的な指数である東証REIT指数が調整色を強めている。7月下旬に5日移動平均線が25日移動平均線を割り込むデッドクロスが発生し、先週には一時、日足一目均衡表の雲を下抜けた。中長期的に、J-REITは株価指数とピークやボトムのタイミングは概ね一致する傾向があり、今回も2月16日に日経平均株価が30714円で直近高値を記録した約5カ月後(7月13日)に東証REIT指数も2178ポイントで直近高値を記録した。
2021年は、国内外REITが主要アセットクラスのなかで高パフォーマンスを示してきた。堅調に推移してきた背景には、世界的なワクチン接種進展による経済再開が挙げられる。コロナ禍で落ち込んだ賃料回復期待が広がり、REIT価格を押し上げてきた。ただし、日本では年明け以降3度の緊急事態宣言が発出され、宿泊施設の客室稼働率(6月:28.7%)は低迷。不動産サービス大手CBREの調査によると、コロナ禍で需要が増加した物流施設の賃料上昇が続く一方、首都圏ではオフィス、商業施設の賃料下落圧力が徐々に強まる。また、東京カンテイの調査では、住宅の取引価格が大幅上昇する反面、賃料上昇は鈍く、コロナ禍での住宅ニーズの変化や売却手控えにより価格形成の歪みが目立っている*1。総じてみれば、コロナ禍以降、不動産賃貸市場は停滞しており、早期の経済再開に対する期待が剥落し、ファンダメンタルズとの乖離を許容することが難しくなったことがJ-REIT市場の調整の一因に挙げられよう。
筆者は、半期ごとにJ-REITおよび国内不動産市場の動向を定点観測的に取り上げている。前回の2021年2月には、ファンダメンタルズが悪化(すなわち、賃料が低下)しており、不動産価格の値上がりを前提としなければ、J-REITのさらなる価格上昇を正当化しづらい点を指摘した*2。この半年間で、東京、大阪のオフィスなど国内不動産市場の一部では長期サイクルのピークアウトが一段と明確になり、リーマンショック以来となる長期的な転換点の到来が濃厚となった。日本では緩和的な金融政策の長期化が見込まれているため、分配金利回りなどで測れば、J-REITに著しい割高感はみられないが、今後、分配金が減少する場合、現行水準では将来的には割高感が強まりうる。足元の東証REIT指数の下落は、上昇局面での短期的な調整にとどまらず、下降基調への転換である可能性にも注意を要する局面だと考えられる。