原油価格の下支え要因
2021-08-10
■ 根強い需要回復期待
■ 需給調整弁としてのOPECプラスの存在
7月以降、原油価格の下押し圧力が高まったわけだが、足元のWTI先物価格は1バレル69ドル台と昨年末の水準(48.52ドル)を20ドル余り上回っており、底堅さがうかがわれる。そして、この背景には原油価格を支える主にの要因の存在が挙げられる。
一つは根強い需要回復期待だ。欧米などの主要国ではコロナの感染再拡大に伴って規制を再強化する動きが目立っているものの、ワクチンの効果によって重症者や死者の数が抑えられていることから、昨年春のような大規模なロックダウンは回避されている。実際、世界最大の原油消費国である米国の石油製品需要も7月末にかけて堅調を維持している。今後についても、「世界的にワクチンの普及が進むにつれて経済活動が正常化に向かい、原油需要の回復に繋がる」との市場の期待は崩れておらず、原油価格の支えになっている。
また、OPECプラスの存在も原油価格の下支え要因になっている。7月の協議が最終的に合意に至ったことで、「協議決裂によって減産の枠組みが崩壊して各国が無秩序な増産に走る」というリスクシナリオが回避されたことは市場の一定の安心材料になった。これまで同様、OPECプラスが原油需給の調整弁としての役割を担い、「仮に原油価格が大きく下落する際には減産幅の拡大で対応するはず」との期待も価格の下支えに繋がっていると考えられる。
需給の調整弁であるOPECプラスの動向が原油価格に与える影響は極めて大きいため、OPECプラスが7月に減産縮小を決定した理由について改めて推察すると、彼らにとっても「あまりに高い原油価格は望ましくないため」だと考えられる。実際、WTI先物が75ドルを超えた7月上旬のタイミングで、イラクのアブドルジャバル石油相が「原油価格が今の水準を上回って値上がりすることは望んでいない」と発言している。原油価格の高騰は、OPECプラス産油国にとっても様々な弊害を起こす可能性が高い。まずは国際関係の悪化だ。今年に入ってからの原油価格上昇を受けて、世界第3位の原油輸入国であるインド政府はたびたびOPECプラスの大規模減産継続を批判してきた。
今回は原油価格が80ドルに接近したことを受けて、原油価格の高騰を回避するために減産縮小を決定した可能性が高い。
ただし、OPECプラスの参加国はもちろん原油価格の大幅な下落を望んでいるわけではない。経済や財政を原油に大きく依存しているためだ。IMFによれば、各国の財政が均衡するために必要な原油価格はOPECプラスのリーダー格であるサウジで76ドル台であるほか、軒並み60バレルを超えると推計されている。