中国経済:変調懸念は杞憂か
2021-07-19
■ 中国人民銀行は預金準備率を引き下げたものの、政策姿勢は「穏健」を維持
■ 一部で景気急減速が懸念されているが、経済指標はむしろ減速ペースの緩和を示している
中国人民銀行(PBOC)は9日に預金準備率の0.5%引き下げを決定した*1。引き下げは、新型コロナウイルス感染対応として実施された2020年5月以来となる。PBOCは、窓口指導を通じた与信の厳格化などにより過剰流動性の吸収を進めており、マネーサプライ(M2)や社会融資総量残高の増勢が鈍化しつつあったが、一転して預金準備率を引き下げ、流動性供給の拡大に転じた。
PBOCの一連の対応は一見すると相反しているが、プルーデンス政策(金融システムの安定化政策)に沿った動きとして捉えると、大きな矛盾はない。マクロレベルでは、金融リスク抑制(債務比率の安定、投機的行動の抑制など)のために、過剰流動性を吸収する一方で、ミクロレベルでは、信用不安を回避すべく、経済的苦境に陥っている中小企業に対象を絞って金融面で支援することを志向している。なお、9日の声明文では、「穏健」的な金融政策を継続することが明記されたが、中国では「穏健」は安定重視を意味しており、政策姿勢としては「緩和」よりも「中立」に近い。この方針が示された今年の中央経済工作会議では、マクロレバレッジ比率(負債総額の対名目GDP比率)の維持安定などが目標に掲げられている。前年の新型コロナ対応によりマクロレバレッジ比率が上昇したため、経済全体では流動性の吸収を優先している。今回の預金準備率引き下げは、主に原材料価格が高騰するなかで小売価格が統制され、収益性が悪化した製造加工業の支援が主な目的である。小売価格の安定化により家計を下支えする一方で、悪影響が生じる企業に対して金融面で支援する措置と整理できよう。
PBOCの突然の方針転換により、一部では中国経済の急減速が懸念されているが、昨日公表された6月の鉱工業生産(前年比8.3%増)、小売売上高(同12.1%増)、固定資産投資(農村部除く、年初来同12.6%増)は、いずれも市場予想を上回り、減速ペースはむしろ緩んでいる。中国政府は安定的かつ持続可能な成長を目指し、今年の成長率目標を「6%以上」と国際機関などの見通しを大幅に下回る水準に設定している。経済正常化が進むなか、景気浮揚のための金融緩和の必要性は低く、政策に変化がみられるとしても、流動性吸収を小休止する程度にとどまると考えられる。
*1 ただし、預金準備率が現在5.0%に設定されている一部の金融機関は引き下げの対象外となる