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新興国株式:ワクチン接種の遅れが株価の重しに

2021-07-14

■ 2021年上期の新興国株式市場は、企業業績の回復を背景に底堅く推移した

■ 新型コロナの感染再拡大に伴い、今後はワクチン接種率の違いが株価に影響を及ぼす可能性も


    本稿では、今年ここまでの新興国株式市場の概要を整理する。なお、本稿で示す株価指数はMSCI指数(米ドル建て)とする。2021年上期(6月末まで)の株価騰落率では、先進国(+12.2%)が新興国(+6.5%)を上回った。ただ、新興国の地域別で騰落率を確認すると、欧州(+12.6%)、南米(+6.9%)、アジア(+5.2%)と、総じて底堅い結果だったと言えよう。最も大きな要因は企業業績の回復と考える。12カ月先1株当たり予想利益(予想EPS)を確認すると、欧州(+24.7%)、南米(+37.3%)、アジア(+10.6%)と、いずれも株価上昇率を上回る結果だった。先進国(+19.0%)に比べれば劣後する地域もあるが、米国と中国を中心とした景気回復が新興国経済へ波及したことに加え、米連邦準備理事会(FRB)が大枠では金融緩和姿勢を維持していることなどが、新興国株価指数の上昇に寄与したと整理できる。
    一方、下期入り後(6月末から7月12日まで)の騰落率では、先進国(+1.7%)に比べ新興国(マイナス3.5%)の弱さが目立つ。新興国の地域別では、欧州(マイナス0.5%)、南米(マイナス2.4%)、アジア(マイナス4.0%)と、軒並み下落。背景の一つとして、金融市場では先進国に比べた新型コロナワクチン接種率の低さが指摘される。結果として、新型コロナウイルス変異株の感染拡大に伴い、部分的な活動制限措置を再導入する国が増加傾向にある点につながる。ワクチン接種率*1を確認すると、新興国でも比較的株価が底堅い欧州は、ハンガリー(57.33%)、オーストリア(55.85%)、ギリシャ(50.33%)など、40%超の国が多い。対照的に、株価騰落率が劣後しているアジアは、従来からワクチンに頼らない新型コロナ封じ込めを志向したこともあり、相対的に低い。中国(43.21%)、韓国(30.40%)、マレーシア(24.22%)などを除くと、概ね20%未満であり、アジア新興国の多くの国で株価の重しとなっている。
   中南米は、チリ(69.13%)、ブラジル(40.83%)、メキシコ(27.37%)など国ごとの濃淡が明確だ。ただ、世界保健機関(WHO)の汎米保険機構(PAHO)は、「6月末時点で新型コロナ変異株の感染はまだ限られるが、中南米?カリブ諸国はワクチン接種の遅延から、新型コロナ収束がかなり先になる」と指摘。2021年上期時点で、WHOが主導するCOVAXファシリティのワクチン供給実績は約9500万回分と、計画(3億3720万回分)の3分の1以下にとどまる。当面の間、株式市場では先進国が新興国よりも優位にある状況は、継続する可能性がある。
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