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ECB:米国と異なる「上下対称」なインフレ目標を導入

2021-07-12

■ ECBは18年ぶりにインフレ目標を見直し

■ 新たに採用された「上下対称な」インフレ目標は、米国型の平均インフレ目標とは異なる


     欧州中銀(ECB)政策理事会は6-8日にかけて特別会合を開催し、8日に金融政策に関する戦略検証(Strategy review)の結果を公表した。戦略検証は、目的に沿った金融政策戦略を確認するために、2020年1月より検討が重ねられてきた。主な変更は、(1)インフレ目標の再定義、(2)気候変動対応への行動計画の策定である。
   (1)は、従来の政策目標であった「中期的に2%に近いがそれを下回るインフレ率(inflation rates of below, but close to, 2% over the medium term)」から、「中期的に上下対称な2%のインフレ率目標(symmetric 2% inflation target over medium term)」へ改められた。
   (2)は、金融政策として気候変動へ対応することが明記された。気候変動対策が金融政策に組み込まれるのは、3月に「温室効果ガス排出量の実質ゼロ」経済の実現を目標に追加した英中銀(BOE)*1に続き2例目となり、米国では見られない欧州独自の動きである。行動計画では、気候変動リスクが資産購入要件、適格担保基準へ組み込まれ、2022年より、気候ストレステストの実施、気候変動リスクの評価?分析の本格化が予定されている。なお、日銀も気候変動対応策の導入を表明しており、7月の金融政策決定会合にて骨子案が示される。
    新たなインフレ目標のキーワードとなる「上下対称(symmetric)」については、目標からの下振れに対しても、上振れと同様に望ましくないことを明確にする意味合いで用いられ、下振れ時の対応が従来よりも求められやすくなることが見込まれる。ただ、ラガルドECB総裁は、米連邦準備理事会(FRB)が採用するような、下振れと同等の上振れを容認する平均インフレ目標(Average inflation targeting)とは異なると明言している。ドイツなど中核国の反対意見が反映されたと推測される。中核国では、新型コロナ緊急対応の常態化についても反対が強まっている。財政問題と同様、政策正常化局面では南北間の利害が対立するため、最終的には欧州の構造問題であるガバナンス(統治)が問われるとみられる。今回の検証がECBの政策の柔軟性を高めたのは確かだが、緩和と引き締めが「上下対称」に運用されるのかは、国を代表している各国中銀の意見集約に拠るところが大きいと考えられる。
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