新興国中銀:二極化の動きが鮮明になりつつある
2021-06-30
■ 6月はブラジル、ロシア、ハンガリー、メキシコの中銀が、物価上昇抑制のため利上げを決定
■ 一方、東南アジア諸国では景気への悪影響を警戒し、政策金利は据え置かれた
本稿では、6月の新興国中央銀行の動向を確認する。本稿執筆時点で6月は12カ国(インド、チリ、ポーランド、ロシア、ブラジル、台湾、トルコ、インドネシア、ハンガリー、タイ、メキシコ、フィリピン)の新興国中銀が政策会合を行い、利上げ実施はロシア(5.00%→5.50%)、ブラジル(3.50%→4.25%)、ハンガリー(0.60%→0.90%)、メキシコ(4.00%→4.25%)の4カ国にとどまった。また、政策金利を据え置いた8カ国のうち、チリとトルコとポーランドを除く5か国はアジア諸国だった。地域別で新興国の金融政策スタンスを大まかに整理すると、5月と同じくアジアは「警戒姿勢を採りつつも、利上げせず現状維持を継続」、南米や欧州は「物価上昇抑制のため、一部で利上げを開始」という傾向と言えよう。
6月の主要国中銀を巡る話題では、何より米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ実施時期の見通しが前倒されたことが挙げられる。FOMC前までは米国の金融緩和長期化に対する思惑を受けた米ドル安が新興国通貨高を支えていた。ところが、6月FOMCを受けてこの思惑が揺らぎ始めたことで、新興国中銀の間でも物価上昇抑制や自国通貨防衛のための利上げへ舵を切り始めるところが増える可能性が高い。6月に利上げ再開を決定した新興国では、昨年の物価下落の反動ともいえる「ベース効果」などから消費者物価上昇率が中銀の規定する目標値を超えている。ロシアは物価目標値(4%)に対して、直近では消費者物価上昇率が前年比6.0%へ伸びが加速。ロシア中銀のザボトキン副総裁は来年中に政策金利が6.00%超になると示唆した。また、メキシコでは物価目標値(2-4%)に対して同6.02%、ハンガリーでも同5.1%と物価目標値(2-4%)を上回った。これらの国では追加利上げを巡る思惑もくすぶる。
他方、6月に政策金利を据え置いた新興国の中では、新型コロナウイルスの感染抑制策として一部地域で都市封鎖を実施した国が多い点に注目したい。チリ政府は6月10日に首都サンディエゴ全域で都市封鎖を再導入し、フィリピン政府はマニラ首都圏の封鎖措置を6月末まで延長。また、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなどの東南アジア諸国では感染再拡大の報道が目立ってきた。こうした国では、景気に対する悪影響を警戒して政策金利の据え置きを余儀なくされる公算が大きく、金融政策を巡る二極化の動きは当面継続が見込まれる。