米国債:金利変動要因の主役交代か
2021-06-29
■ FOMC以降、米長期、超長期金利は予想外の大幅低下となった
■ 短中期金利の変動性が高まったことは、物価から金融政策への金利変動要因の移行を象徴か
15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2023年末の参加者の政策金利見通しの中央値が50bp引き上げられ、金融市場は一時大きな混乱に陥った。株価急落やドル高進行などは米金融政策の転換に伴いある程度想定された反応と解釈できるが、予想外の反応を示したのは、米長期、超長期金利である。FOMC以降、早期利上げ観測が高まり、米短中期金利が上昇するなか、長期、超長期金利は大幅に水準を切り下げている。
報道内容を総合すると、FOMCの決定をきっかけに、イールドカーブのスティープニング(傾斜化)進行を見込んだ持ち高(スティープナー)の解消が進んだことが大きく影響したようである。スティープナーとは、金利の上昇、低下に関わらず、イールドカーブのスティープニングにより利益が上がるような持ち高のことを指す。米国債で組むことを想定すると*1、一般的に、長期、超長期国債を売ると同時に、短中期国債を買うことが多い。通常、売り持ち、買い持ちの割合は、金利変動の影響を相殺するため、金利感応度であるデュレーションの合算値が等しくなるよう調整される。FOMC前にスティープナーが積み上がっていたのは、緩和的な金融政策の長期間継続が前提となっていたためだと推測されるが、FOMCの決定により2023年以降の利上げが織り込まれ、短中期金利が急上昇したため、この前提が崩れた。短中期国債の買い持ちでの損失が膨らむとともに、短中期金利の安定を前提としたイールドカーブのスティープニング進行を見込みにくくなったことがスティープナー解消の引き金となり、長期、超長期国債の買い戻し(すなわち利回り低下)が促されたとみられる。
このように整理すると、FOMC後の米長期、超長期金利低下は、短中期金利の上昇に誘発された取引解消(すなわち投資家のロスカット)が主因であり、必ずしもインフレ期待の後退などを強く示唆している訳ではない。FOMC前に見込まれていたスティープニングシナリオの修正が迫られている点は否めないが、米金融政策に逆行して長期、超長期金利の低下が持続することも考えづらく、取引解消が一巡すれば金利低下には歯止めが掛かろう。同時に、金融政策の影響を受けやすい短中期金利の変動性が高まっていることは、金利変動の主因がインフレ期待を含む物価動向から金融政策へ移行しつつあることも象徴している。
*1 実際には金利スワップが用いられることも多いが、金利スワップが用いられる場合でも、米国債市場に間接的に影響が及ぶ。