メキシコペソ:米国との関係がペソ高の支えに
2021-06-17
■ メキシコペソは堅調な展開が続き、対米ドルが今年1月、対円が昨年3月以来の高値圏にある
■ 6月下旬にかけては米国とメキシコ、両国の中央銀行が示す金融政策のスタンスに注目が集まる
本稿では、主要新興国通貨のなかで堅調な展開が続く、メキシコペソ(ペソ)の動向を確認する。本稿執筆時点では、対米ドルが19.9ペソ台(数字が小さいほどペソ高?米ドル安)と年初来高値(19.537ペソ)、対円は5.5円台(数字が大きいほどペソ高?円安)と昨年3月高値(5.61円)が、それぞれ視野に入る水準へ上昇している。
直近のペソ高の要因であり、かつペソの動向を見るうえで欠かせないのが、米国との関係だ。経済正常化の進展から米国景気は回復傾向にあるが、メキシコ経済は大きな恩恵を受けている。メキシコの対米貿易額は輸出全体のうち約80%、輸入全体のうち約45%(いずれも2019年)を占める。また、メキシコは米国の隣国との地理的要因から、世界の大手自動車メーカーが工場を多数設立し、米国に向けて自動車を輸出している。これはメキシコの貿易収支改善を通じペソ高を支える要因と言えよう。加えて、バイデン米政権の誕生が政治面での関係改善に寄与。6月2日に外相会談が開催されたほか、同8日にはハリス米副大統領、同15日にはマヨルカス米国土安全保障長官がメキシコを訪問し、移民対策やワクチン配布などで連携を深める。米国との関係がペソを支える構図は、当面継続が見込まれよう。
一方、金融政策を巡っては状況を注視すべきタイミングに差し掛かる。6月9日公表の5月の消費者物価指数(CPI)は、前年比5.89%上昇と依然メキシコ中銀の物価目標(同2-4%上昇)を上回る。また、6月2日にメキシコ中銀が公表した四半期報告では、今年の物価上昇率見通しが4.8%へ上方修正されたほか、今後のリスクは上振れ方向との見解が示された。市場では年内の政策金利(4.0%)据え置きが見込まれるが、政策姿勢転換への手掛かりを得るため、6月24日開催の政策会合が注目される。ただ、ロペスオブラドール大統領は現在のディアス?デ?レオン中銀総裁が任期切れとなる今年の年末以降に再任せず、エレラ現財務公債相を次期総裁に指名した。年後半にかけて、現政権と中銀の不協和音は気になるところだ。
米連邦準備理事会(FRB)が6月15、16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融緩和長期化のスタンスを崩さなければ、メキシコペソは目先一段高となる可能性もある。その場合、対米ドルでは今年1月高値(19.537ペソ)、対円では昨年3月高値(5.612円)を突破し、メキシコペソは底堅い展開が続く見込み。