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ワクチン普及と景況感の関係

2021-06-10

   昨年以降、経済は新型コロナウイルスの感染状況に大きく左右され、流行の波の到来ごとに景気は落ち込みをみせてきた。しかし、年明け以降、新規感染者数との連動性は徐々に薄れている。主な理由は、新型コロナウイルスワクチンの接種が始まったことである。ワクチン普及に伴って、都市封鎖(ロックダウン)のような厳格な経済活動制限を行う必要性が低下し、経済正常化への道筋が開けつつある。
   これを反映するように、足元の経済指標は、新型コロナウイルス新規感染者数に代わり、新型コロナワクチン接種率との連動性を高めつつあることがうかがえる。主要国の新型コロナワクチン接種率(6月7日時点)を見ると、英国(約59.4%)、米国(約51.1%)、欧州連合(EU、約40.8%)などで接種が進展する一方、5月に高齢者接種が始まった日本(約10.2%)は欧米に大きく遅れている。ただし、接種率の変化(前週比)をとると印象が変わる。英国(1-3月)、米国(2-3月)、EU(3-4月)の順に普及が進んだが、いずれも足元では普及が一巡し、上昇ペースが鈍化。対照的に日本では、5月以降、急加速しており、足元では欧米を上回るペースで接種が進展している。興味深いのは、ワクチン接種率(前週比)と景況感の連動性が高く、ワクチン接種率の上昇ペースが加速した約1カ月後に景況感が著しく改善している点である。景況感として、主に国内の経済活動を反映するサービス業PMIを参照すると、英国、米国、ユーロ圏では、いずれもワクチン接種が大きく進展した翌月にサービス業PMIが急上昇していることが確認できる(英国:2月以降、米国:4月以降、ユーロ圏:5月、図表2)。これを日本に当てはめると、5月にワクチン接種が本格的に始まったため、6月以降、景況感の改善が明確になってくることが期待される。
   ただし、昨冬の新型コロナウイルス感染第3波による経済活動制限下でも景況感の悪化が限られた欧米とは対照的に、日本では、3度目の緊急事態宣言の延長により、5月のサービス業PMIは低下しており、経済活動制限の影響が依然として強く表れている。ワクチン接種の進展によって集団免疫獲得の見通しが立ち、緊急事態宣言の終了が視野に入れば、経済の先行きに対する期待が広がることが見込まれるものの、現時点では、そのような状況に到達している兆しはみられない。
   日本では、今夏以降、重要イベントが続く。7-8月に予定される東京五輪については、開催の可否は不透明であり、開催された場合も、規模、観客の有無によって、経済効果や新型コロナウイルスの感染状況が変わってくるため、現時点では、好悪どちらにも影響が及び得るワイルドカード的なイベントと言える。また、10月21日に衆議院議員の任期満了を控えており、東京五輪終了後は9月頃の解散総選挙に向けて、支持率向上を企図した補正予算編成への思惑が広がろう。マインド改善や政策的な景気浮揚が期待されるスケジュールが控えているものの、経済が正常化していなければ、その効果は半減する。欧米と同じようにワクチン接種が進展しているここまでは、感染抑制からワクチン普及へ政策の比重を傾けた政府の狙い通りに事態が推移していると考えられる。欧米と同じように景況感改善につながるのか、ここ1-2カ月の日本の景況感の変化には特に注目している。


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