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トルコリラ安進行で物価高抑制は一時的

2021-06-07

■ エルドアン大統領が中銀に利下げ圧力をかけ、トルコリラは対ドルで史上最安値を記録

■ 6月会合は政策金利据え置きだが、7月以降の利下げ観測は根強く、対円も史上最安値を更新か

    6月2日、トルコリラ(リラ)は対ドルで史上最安値を記録し、8.77リラ台後半までリラ安が進行した。対円は12円台半ばを割り込み、2020年11月に付けた最安値12円03銭を視野に入れる展開となった。リラ急落のきっかけはエルドアン大統領のTVインタビューでの発言。同1日にカブジュオール中銀総裁と協議し、「金利引き下げは投資負担を軽減する」として7、8月に金利低下が開始される必要があると唱えたため。その後、同総裁は投資家との電話会議で、「早すぎる政策緩和は正当化されず懸念は無用」と発言。インフレ率は9-10月頃に大幅に低下するとの認識を示し物価安定にコミットした。ただ、中銀総裁就任間もない4月初旬にも、投資家との会合で引き締め姿勢を堅持したが、同15日の政策決定会合では政策金利を19%に据え置き。声明からは追加利上げを示唆する文言が削除され、利下げ観測を高めた経緯がある。大統領による介入で中銀の独立性は脅かされており、市場のさらなる信認低下は避けられない。
    昨日公表の5月消費者物価指数上昇率は前年比16.59%と、2年ぶりの高水準だった前月から鈍化。新型コロナウイルス感染拡大を阻止するため、トルコ政府が4月29日から5月17日まで全国的な都市封鎖を導入したことなどが影響したが、中銀目標(5%±2%)を超える物価高は続く。中銀は4月29日公表のインフレレポートで今年末のインフレ目標を12.2%に引き上げ、物価上昇圧力が緩和されるまで引き締め姿勢を維持するとした。ただ、5月6日の政策決定会合でも政策金利を据え置き、「過去の利上げによって経済の需要は冷え込み始めている」と懸念の色をにじませた。1-3月期の実質GDPは前年比7.0%増へ加速。工業生産が回復するなど製造業がけん引したほか、個人消費や輸出も成長を下支えした。だが、5月の製造業PMIは49.3と好不況の分かれ目となる50.0を1年ぶりに下回るなど、4-6月期は成長ペースの鈍化が見込まれる。6月17日の会合でも政策金利は3会合連続で据え置かれる公算が大きいが、7月14日の次々回会合以降は大幅な利下げが決定されると市場は見込む。金利先安観が強まるなか、リラは対円でも史上最安値12円03銭を更新する可能性もあろう。
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